Dream
□オネガイダカラ、頼むから
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「777年7月7日?」
ルーシィは自分の隣に座るウェンディに目を落とした。
「はい。私やナツさんに滅竜魔法を教えたドラゴンは同じ日にいなくなってるんです。」
「...遠足の日だったのかしら?」
頬杖をつき素晴らしいボケをかますルーシィにギルドの仲間達が話を割って入ってきた。
「でもよお、不思議だよな。」
「おおっ!同じ日に消えるなんて...」
「だー違う違う。このギルドに3人もドラゴンスレイヤーがいることがだよ!」
「確かに...」
と突然の割り込みに今更驚くことも無く、ルーシィは呟いた。
反対にウェンディはまだこのギルドに入ったばかりでこの賑やかしさに驚いてばかりだった。
「珍しい魔法なのになあ。」
「ねえウェンディ、やっぱり天竜グランディーネに会いたい?」
「...はい。会えるなら今すぐにでも。」
ルーシィやギルドの仲間達はこの質問をしたことに後悔した。
ウェンディの作り笑顔に胸が苦しくなった。
ギルドへの帰り道騒がしい2人と一匹がいた。
「もうー!!ナツッ!あんたいい加減にしなさいよね!どうしたら山が半壊するのよ!?」
今日のクエストの内容は最近森に現れた狼の群れを討伐する、という魔導士にしてみれば簡単な方だった...はず。
「だってよ〜なあハッピー?」
ルーシィに怒られたナツはふて腐れ気味で相棒の名を呼んだ。
「あい!そうだよルーシィ。ルーシィ細かすぎ〜」
「どこがよ!?....まったく、どうすんのよ〜また家賃払えなくなっちゃったじゃないの。」
「悪かったって。また明日....」
「...?なに、まさか狼?次は山一つ無くす気?」
今の今までふざけていたナツの表情が固まり、茂みの一点を見つめていた。
「ナツどうしたの〜?あ、おいらの魚食べる?」
「...。」
相棒の言葉にも耳を傾けず少しも動かないナツにハッピーとルーシィもさすがに心配をしだした。
「...ナツ?あんた一体どうしたのよ?可笑しいわよ。」
「...あい」
ビクンと急に肩を揺らしたナツはそのまま先程まで凝視していた茂みに一直線へ駆けていった。
「!?ちょ、....追うわよ!ハッピー!」
「あいさー!」
「はぁはぁ...。あんた、羽ずるいわねっ!」
「あ、ナツ〜!」
息が上がっているルーシィに対してナツを見つけ喜ぶハッピー。
「ナツ!何して...」
「おい!どこだ?どこにいたんだよっ!?」
ナツを見つけたルーシィは目を見開いた。
ナツは旅人の格好をしている一人の男の胸倉を掴み、凄い剣幕でつかみ掛かっていた。
「なな、なんなんだよ!?急にやってきて。」
「そ、そうだそうだ!」
旅人な仲間と思われる男が尻餅をついてナツを見上げていた。
「あ?」
二人の男はナツの剣幕に竦み上がっていた。
「てめえらさっき言ってたろ。ドラゴンのこと、詳しく聞かせろ。」
ナツの行動に驚いていたルーシィも徐々に復活していき状況を理解し始めた。
「やめなさいよあんた!この人達怖がってるじゃない。」
他の人からもわかるよう、明らかに旅人達は怖がっており見てるこっちが可哀相に思えてくるのだった。
いつものように、軽い気持ちで怒鳴ったルーシィだったが...
「あぁ?黙れよ。」
敵に対してのナツの怒りを何度か目にしたことのあるルーシィ。
だが今のこの怒りは自分に対してのもの。初めてナツに怒りを向けられ、悔しいだのいろんな気持ちが混ざりあった。
だが、一番は...恐怖。今まで一度も仲間に対して怒るナツを見たことがなかった。
身体が小刻みに震え、胸が苦しくなった。
そんなルーシィに気付かないナツは再び男を問いだした。
「おい、てめえらどこでドラゴンを見たんだ!?」
「は、はあ?ドラゴン?マグノリアの広場でやってるショーでだけど...。」
「....。」
「あ、あの〜?」
「ナツ!イグ二ールが街にいるはずないよ。」
いつの間にかナツの肩に止まっていたハッピー。
ドンッと鈍い音をたてナツの手から男が落ちた。
「ひっ...う、うわわわああぁ!」
叫び声を上げ走り去っていく旅人達には目をくれず大きな溜め息をついた。
「ナツ...。」
心配そうに見つめるハッピーにナツは作り笑顔で答えた。
「悪りいな、ハッピー。さっきの奴らの会話が聞こえてさっ。ドラゴンを見たとか言うからイグ二ールかと思ったんだ!」
ま、違ったけどな。
あとからそう小さく呟いた。
「あーぁ!帰るかあ。ルーシィ....!?ってうわわああ!?お、お前なんで泣いてんだよ?」
帰ろうと思い振り向いたナツの視線の先には瞳に涙を溜めて
けれど泣かないように必死に堪えているルーシィの姿だった。
「...っ。だ、だって。」
「ナツがルーシィのこと泣かした〜。」
「お、俺かっ!?」
「そーだよー。だってナツさっきルーシィに怒ったでしょ〜?」
思い出したナツの顔には半端ない量の冷や汗。
「る、ルーシィ。泣くなよ。」
自分のマフラーでルーシィの涙を乱暴に拭く。
「...悪かったよ。俺、イグニールのことになると周りが見えなくなっちまうんだ。」
ドンッと胸の辺りに心地好い重みを感じ、思わず抱きしめた。
「わかってるわよ。あんたがイグニールに会いたいことぐらい。みんな、みんな、あんたも、ウェンディも、ガジルも。」
ルーシィはナツの背中に回した腕の力を強めた。
「だからあんた達、そんな偽物の笑顔するくらいだったら本当のこと、言いなさいよっ!」
「...はあ?何言ってんだよルーシィ。俺は確かにイグニールに会いてえけど、」
「寂しいんでしょ?不安なんでしょ?苦しいんでしょ?」
「....。」
「たまには弱音吐いたっていいんだよ?」
いつもいつもけして仲間の前では弱音を吐かないナツがルーシィは一番心配だった。
「.......................俺は、.....イグニール。......どこにいるんだよ?なんでみんな俺の前から消えるんだよ。くそっ!会いてえよ...。」
言葉にならないナツの気持ちも全部、この体温から伝わってくるような気がしてまた涙を流した。
涙を流さないナツの変わりに...。
しばらくして沈黙を破ったのはナツだった。
「...なあ。」
「?」
耳元で聞こえるいつもより低いナツの声に赤面するルーシィ。
「お前も....。ルーシィ、頼むから俺の前から消えんじゃねえ。」
リサーナのことがフラッシュバックした。
「当たり前じゃない!家賃全部返さなくちゃいけないもの。」
「ははっ。やっぱルーシィは金だよな。」
短く、小さくだったが、その笑った顔は確かにナツの本物の笑顔だった。
「でぇきてぇるぅ〜」
今の今まで忘れられていたハッピーは小さく呟いた。