銀魂・長編 2
□第零章『昔々』
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昔々、先生がまだ生きていた頃
先生が言った言葉が不思議で
泣いた事があった。
そん時の俺は泣くことがなんなのかわからなくて
目から零れ落ちる水を拭わず立ち尽くしていた。
どうして泣いているのか、と先生が慌てていた。
「わかんない、でも止まらないんだ」
先生は俺がそういうと悲しそうに笑った。
「無表情で泣くなんてしないで、思いっきり泣きなさい」
俺は首を傾げたが先生は俺を抱きしめて
「大声をだしたい気分でしょう?」
俺は頷いた。
声を上げて何故かわからないけど叫びたい。
頭の中がぐちゃぐちゃで苦しい。
「ならそうすればいい、恥ずかしい事ではないのだから」
先生の手が俺の髪をくしゃ、と撫でて背中にまわり、包み込んでくれた。
あったかい。
俺は大声で泣き叫んだ、先生の言った言葉は忘れていた、でも今は、とっても優しい言葉だったと思った。
それから俺が大声で泣き叫んだのは先生が死んだ時だった。
苦しかった、初めて泣き叫んだ時とは違った苦しみだった。
息がくるしい、胸が痛い、頭がぐちゃぐちゃ、手足が麻痺してる、奴らが憎い
誰もいない森の中で先生が包み込んでくれないかな、と考えてしまった自分が馬鹿らしくて笑った。
先生はもういないのに。
殺されてしまったのに。
それから俺が泣き叫んだことは一度もなかった。
今では先生のぬくもりが思い出せないほど時が過ぎた。
攘夷戦争に出て、桂や高杉、坂本と死にもの狂いで天人を殺した、
手は真っ赤で血の臭いが染みついて、嗚呼、もう先生に抱きしめてもらえない・・・、そう思って死にたくなった。
血に染まった俺は攘夷戦争が終わるまで天人を殺しまくった。
いつしか『白夜叉』と恐れられるようになってしまった。
戦争の途中で高杉は左目を失った。
泣き叫びたくなった、でも我慢した。
泣き叫ぶことなど俺がしていいことじゃない、
噛みしめた唇から血が流れたけど気にしなかった。
もう一度、死んでもいいから
あのぬくもりが欲しい、そう願ったけど叶う事はないだろう
先生は死んだ。死んだ人はよみがえらない。