歪愛

□インタビュアーの受難
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記憶。それは最も消し去りたい、とある夏の日のもの。忘れたいと思えば思うほど蝕むもの。男は言った。「好きだ」と。「好き」で「好き」で仕方がないのだと。「愛している」のだと。「傍にいてほしい」と、私の首に指を絡ませて、譫言のように機械のように。何度も、そう何度も。怖かった、恐ろしかった、言葉が出なかった。彼は私の『生』を奪うことによって、完璧に私を支配しようとしたのだ。何故なぜナゼ。頭にはそれしかなかった。どうしてこんなことをするのか分からなかった。瞳に涙という名の水の膜を張り、私はひゅうひゅうと息を吐き出す。彼はそんな私を見て笑った。そして言った。――「愛している」と。

***

様々な人を経て、私は彼女に辿り着いた。池袋の住人曰く、平和島静雄と一緒にいるところをよく見かけるという。一時期平和島静雄の恋人ではと囁かれていたが、実際はただの友人だとかなんとか。そこのところはどうもはっきりしなかった。彼女の名は如月真宵氏、20歳。現在専門学生とのことだ。

「へ? 静雄さんについて聞いている?」
「ええ。今池袋で喧嘩NO.1なのは誰だ、って企画を立てているんですけどね、皆さん口を揃えて平和島静雄さんだと答えるんですよ。そこで彼を知ってる人から話を聞いているという次第です」

私の言葉に如月氏はふーん、と相槌を打つ。

「別にいいですけど、ちょっとお腹すいたんでパン食べてもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
「んじゃ、遠慮なく」

がさがさと、如月氏はトートバッグの中から大きなメロンパンを取り出し食べ始めた。

「んで、何が聞きたいんですか?」
「ああ、そうでしたね。ええと、如月さんから見て平和島静雄さんはどんな人ですか?もちろん、強さ的な意味で」

如月氏は少し悩んだようであったが、やはり他の面々と同じように「圧倒的な強さ」と答えた。

「静雄さんの強さは気持ちがいいと思うんですよね。だって圧倒的だもの。負ける要素が見当たらないというか、静雄さんが負けるなんて想像がつかないというか。そういう感じなんですよ、静雄さんって」

負ける心配が無いと。ますます分からない。インタビューの中で、池袋最強の名に上がったのは何も平和島静雄だけではない。黒バイクのセルティ氏や、粟楠会、ダラーズやそういった名も出てきた。如月氏の中ではそう言った組織や人物すらも、平和島静雄の前ではとるに足りないということなのだろうか。

「ですが、インタビュー中には黒バイクやヤクザ集団の粟楠会といった面々が池袋最強ではないのかという意見がありました。あなたにとって平和島静雄さんは彼らより強いと?」
「もちろん」

迷いのない声だった。

「セルティは見た目はあんな感じだけれど、圧倒的な強さというのはありませんよ。記者さん、セルティの名前を知ってるってことはセルティにもインタビューしたんですよね。じゃあセルティも言ったんじゃないですか?池袋最強は静雄さん、って」
「それは…まあ…」

全く間違いではなかった。セルティ氏は言った。平和島静雄は拳銃のような強さであって、比べること事態がナノセンスだと。


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