歪愛

□飴のように、甘くとろける
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「うーっ、寒い!」

真宵はぴゅうぴゅうと吹く風に煽られながらも、必死に笑顔を作り働いていた。いつも頭のてっぺんに作られているお団子ヘアはほどかれ、ツインテールに結い直されている。そして、その頭には白いヘッドドレス。もっと言うと、胸元には大きなリボンに白いエプロン。その下は膝上の黒いワンピースを着ている。…そう、真宵が着ているのはメイド服だった。

彼女のバイト先の、メイド喫茶の制服なのである。しかし実際のところ、真宵は別にメイドとして働いているわけではない。普段は厨房に入り、料理を担当しているのだ。最近は寒暖差が激しく、メイドとして働いている女の子達は体調不良で仕事を休んでしまっているため人出が足りず、急遽メイドとして働くことになったのである。もちろん最初は真宵も嫌がっていたのだが、客引きの仕事だけでいいというのと、店で一番大きいパフェを今日はご馳走してあげるからという店長の言葉に、コロッ態度を変えたのである。

「パフェのためだパフェのためだ…」

いくら長袖のメイド服を着ていたとしても、寒いものは寒い。しかしここはパフェのため。真宵は出来得る限りの可愛らしい声を出して、客引きを始めた。と、その時。見覚えのある2人の人物が、真宵の目の前を通り過ぎた。

「あっ、静雄さん!トムさん!」

思わず声をかけると、2人―…静雄とトムは不思議そうな顔をして振り向いた。2人の元へ近づく真宵。しかし、なおも不思議そうな顔をする2人に、真宵も思わず首を捻る。

「…あの、私の顔に何かついてます?」
「いや…、えーっと…?」
「…ごめん、誰だっけ?」


一瞬の静寂が、辺りを包んだ。


「……ちょ、酷いですよ!静雄さん!!トムさんまでっ! 真宵です、真宵っ!」

一瞬ふらっと目眩も覚えるも、真宵は体勢を立て直し、くわっと食い気味に名乗った。


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