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□白に埋もれる、赤
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「お願い、あのバカを助けてあげて…っ!!」


その人は、大粒の涙を流して僕にそう言った。








ずっとずっと憧れていた赤いチャンピオン。彼を超えたくて、僕たちは強くなった。より高く、より頂点へと向かって。
頂点に会える、その直前。
その人は僕たちの前に立ちはだかった。


強かった。
とてもとても強かった。
まだこんな人がいたのかと思うほど、強かった。
それでも勝ったのは僕。
でも次にバトルをしたら、勝つのはこの人かもしれない。

その人はバトルが終わった途端、崩れ落ちるように地面に膝をついた。
彼女のポケモンであるブラッキーが、心配そうに、そして励ますように彼女の顔をなめる。


「だ、大丈夫ですか!?」
「…ねぇ、君は彼とバトルをするためにここへ来たんだよね?」
「え、と、はい」
「私のお願い、聞いてくれるかな?」


ひゅ、と喉がなった。
顔をあげた彼女の頬は涙で濡れていて、バトルをしていた間の凛々しさはどこにもなかった。
かわりに、1人の人を思う女の子の顔をしていた。


「お願い、あのバカを助けてあげて…っ!!」
「…え、」


ブラッキーを抱きしめて、震える声で、でもしっかりとした声でそう言った。
僕には意味がよく分からなかったけれど、話を聞いているうちにだんだんと分かってきた。
グリーンさんが言っていた女の子の幼馴染はこの人なんだ、って。


「チャンピオン、なんて呼ばないであげて。そんな肩書きレッドは望んでいないの。お願い、お願い、勝って。レッドに勝って!私じゃあ、レッドを救えない…っ!!」


思わず、抱きしめてしまった。
目の前で震える女の人を。
年上の女の人を抱きしめるなんて、初めてだけれど、こんな寒い場所で、大切な人を待ちすぎて冷たくなった心を、少しでも、暖められたら。
そう、思って。


「僕、勝ちます。レッドさんに、勝ちます。超えるんです。超えたいんです、あの人に」
「本当…?」
「約束です。今度会うときは、レッドさんに勝って、レッドさんと一緒にシロガネ山を下山した時です!!」
「…うん、約束、だよ。レッドに勝って。君のためにも、レッドのためにも、絶対に!!」






白に埋もれる
((ああ、しまった。あの人の名前を聞くのを忘れてしまった))
((まあいいか。どうせすぐ会えるんだ))
((白い白い雪に混じって、映えるような赤が立っていた))
(レッドさん、俺と、バトルしてください)







2010/07/10


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