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□桜が魅せた、淡い想い
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「おい、ちゃんと起きろ。寝ぼけてんなよ」
「……、新堂くん!?」

ようやっと、はっきりと目が覚めたのであろう。一度瞬きをした後、驚いた様子で花音は新堂の名を呼んだのだ。

「あ、あれ、新堂くん、何でここに…!?てゆか、暗っ!!え、今何時!?」
「慌てんなって。お前こそ、何でこんなとこにいんだよ」
「え、えー?よく分かんないけど、桜を、見に…?」

自信無く答える花音に、新堂は疑問に思った。桜を見に?今は葉っぱしか身に付けていない桜を、どうして見ようと思うのか。そう思いはしたが、口には出さなかった。花音自身、なぜ自分が桜を見に来たのかよく分かっていないように思えたからだ。

「…いーからさっさと帰れ。これ以上遅くなると、不審者が出るぞ」
「う、うん…。新堂くんは?」
「俺は他のヤツと待ち合わせしてるから」

もちろん、ウソだ。花音を早く帰宅させようとするのは、校舎内をうろついている別の殺人鬼達から彼女を逃すため。殺す気の無い人間が殺されたとなると、どうも寝覚めが悪い。…本心では、花音が殺されて欲しくないと思っている新堂であるが、そんな考えを持つ筈ないと自身の考えを振りはらったわけだが…。

「ほら、忘れ物はもうねぇだろうな」
「大丈夫!」

彼女が横たわっていた場所の近くに転がっていた学生鞄を拾い上げ、渡す。パタパタとスカートをはたき、土をふりはらう花音。誰もこちらへ来ないだろうかと警戒していた新堂は、ふと花音の方を見て固まった。

…なぜならば、彼女を逃がすまいとでも言わんばかりに彼女の肩に、腕に、腰に、足に、無数の手が絡みついていたからだ。今度は、先ほどの桜の木のような見間違いなどでもない。しっかりと自分にはそれが見えている。手は、どうやら桜の木から伸びているようだ。


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