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□桜が魅せた、淡い想い
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「な、」

しかしー…。驚いて顔をぶんぶんと横に振り、もう一度そちらを見ると桜の花は咲いていなかった。青々とした葉っぱが枝を覆っている、何の変哲もない木。疲れていたのだろうか。それにしてもひどくリアルな情景であった。

「…ん?」

今のは一体なんだったのだろうか…。新堂はそう思いながら桜の木に近づいて行くと、誰かが木の根元で寝転がっているのを見とめた。制服から見て女子だということが分かる。新堂は手に持っていたサバイバルナイフをたたみ、制服のズボンの後ろポケットへ隠すように仕舞いこんだ。木のそばまで歩み寄り相手の顔を覗き込み…そしてハッとした。

「柊…」

桜の木の根元で体を丸めて眠っていたのは、新堂と同じクラスの柊花音だった。少々おっちょこちょいというか、ドジというか、そんな彼女に新堂はよく世話をやいているのである。他の女子よりはよく喋る間柄、つまり友人であると言えよう。そんな彼女がなぜこんな時間にこんな場所にいるのか。新堂は無意識に、後ろポケットに突っ込んだナイフをさらに奥へと押しやった。

「んぅ…」

彼女の様子を見ていると、ぶるりと体が震えた。そして睫毛を揺らし、ゆっくりと目を開けたのである。花音を起こそうと持ちあげた新堂の手は行き場を失い、だらんと力なく重力に従って落ちる。

「柊、お前なんて時間までこんな所にいるんだよ」
「……、…しんどーくん?」

まだはっきりと覚醒はしていないのだろう。寝ぼけ眼を新堂に向け、寝起き特有の舌足らずな声で新堂の名を読んだ。そんな彼女の頬にペチリと手をあて、新堂は呆れたように溜め息をつく。


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