歪愛

□インタビュアーの受難
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「粟楠会も、強い人はたくさんいると思いますけどやっぱり圧倒的な強さとは程遠いですよ。静雄さんと粟楠会、喧嘩をしてるのを見ると静雄さんが必ず勝つって確信がありますもん」

如月氏の口ぶりではまるで粟楠会の人間に知り合いがいるようなものではあるが、色目は出さないとセルティ氏の件で充分思い知ったのだ。今度こそ色目は出さない。絶対に。

「ふむ…なるほど」
「…あの、記者さん。もしかしなくとも、静雄さん本人にもインタビューするつもりですか?」
「え?ええ。セルティさんから彼の職場についてきいているので、後で取材交渉に…それが何か?」

一口二口三口。如月氏は残りのメロンパンを三口で食べきり、咀嚼し嚥下し、トートバックからペットボトルを取り出し入っていた水を一気に煽った。

「ふー…別に止めはしませんけど、ちょっとでもやばいと思ったら逃げてくださいね。静雄さんは優しいけれど、あなたみたいに初めて静雄さんに会う人はきっと引き際が分からないだろうから。あ、やばいって思ったらもう遅いんで慎重にお願いします」
「え…っと?」
「いや、難しいですよね。ごめんなさい。えーと、じゃあ、アレだ。静雄さんとサシで話すのだけはやめてください。静雄さんの上司に田中トムさん、って人がいるんですけど、トムさん含めて話してください。トムさんならきっと静雄さんがキレてもいい感じに止めてくれますから」

如月氏の言っていることに、私は困惑した。いったい何をそんなに心配されているのか。私はこの企画を立てたときから肋骨の一本や二本は覚悟をしている。でなければ、粟楠会にまで顔を出したりしない。それにここまで街の住人に恐れられているのだ。私自身、平和島静雄に対してそんな無茶に不躾な質問などするつもりなどない。もし万一怒らせてしまっても、殴られる覚悟は十分にできている。

「とにかく、死なないで下さいよ!あなたが死んで静雄さんが犯罪者になっちゃったら、私あなたを呪いますからね!」

死ぬなんて、そんな大げさな。私は如月氏の言葉に軽く笑って「分かりました」と答えた。

***

結果として、私は如月氏が忠告してくれたにも関わらず、平和島静雄にぶん投げられてしまったのである。体中が痛い。死ぬかと思った。ああ、ここに田中氏がいてくれてよかった。本当によかった。

「あーあーだから怒らすなっつったべー。これに懲りたらあいつを訴えようとかすんなよ?」
「…田中、トムさん…」
「ん?俺、あんたに名乗ったっけ」
「如月さんに、平和島さんと話すならあなたを含めて話をしろと忠告されまして…。あなたがいてくれて本当に良かった…」
「あー…真宵ちゃんにも話しを聞いたんだなあんた」

如月氏が言ったことが、少しだけ理解できた。確かに平和島静雄は強い。比べることがナノセンス、圧倒的な強さ。言葉通りだ。

「ふ…私が死ななくてよかった。死んだら、記事は書けない上に如月氏に呪われるところでしたからね」
「は?」

悲鳴を上げる体を叱咤し、握りこぶしを作ってゆっくり起き上がった。死ぬほど痛い。痛いが、私の言葉に素っ頓狂な返事をした田中氏に少しだけ愉快になった。

「いやなに。彼女に言われたんですよ。『とにかく、死なないで下さいよ!あなたが死んで静雄さんが犯罪者になっちゃったら、私あなたを呪いますからね!』と。彼女は平和島さんのことが好きみたいですね。二人は本当に友人なんですか?実は昔の噂通り恋人関係では…」
「いや、マジで懲りろよおっさん」

田中氏は、まだがくがくと体が震えて立ちきれない私を置いてさっさと職場の事務所に引っ込んで行ってしまったのだった。

***

「…静雄、お前今度真宵ちゃんに会ったら礼言っとけよー」
「え?」
「今回だけじゃなく、ありゃあ今まで何回も助けられてる気がするぞ」
「…?はあ、分かりました」

よく分からなまま静雄が真宵に礼を言ったのは、その次の日の話だった。










インタビュアーの受難
2017/04/11

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