歪愛

□福はそと、鬼はうち
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真宵が赤林の正体を知っているのかいないのか、それは赤林自身にも分からない。知っているかもしれないし、知らないかもしれない。はたまた何となく察している程度かもしれない。いや、しかし岸谷を通して四木とも知り合っているというのだからやはり気づいている可能性の方が高いだろう。

ただ赤林が自分から真宵に己の本業を言ったこともなければ、真宵も赤林が何を生業にしている人間か聞いてこないためそこははっきりとしないのだ。だが、それで良いと思っている。遠ざけるでもなく、近づけるわけでもなく。この距離感が丁度いいのだ。もし真宵が望んで『こちら』の世界に来るというのならば、それはそれで構わない。が、巻き込まれる形で『こちら』に足を踏み入れてしまったときは全力で守ってやろうとは思っている。

「真宵ちゃんさあ、最近変わったこととかないかい?変なこととか起きたら、すぐおいちゃんに相談してくれよな」
「赤林さんは本当に心配性ですねー。会うたびに聞いてくるんですもん!」
「心配もするさ。カラーギャングも数は減ったが、世の中悪い人がいっぱいいるからね」
「その悪い人から身を守るためにお守り(スタンガン)があるんですから、大丈夫ですよ!あ、でも困ったこととかあったらすぐ相談するんで!」
「うんうん、そうしてくれよ」
「ふふ、あーあ。赤林さんみたいな人が、もっと前から傍にいてくれたらよかったのになあ」

最後の方は、聞こえるか聞こえないかの声だった。すぐに大トロを口に入れて、「大トロ最高!」と叫んだため、あまり突ついて欲しくない独り言だったのだろう。真宵にも、何か色々と事情があるらしい。あまり聞いて欲しくないようなのと、もう終わっていることであるのは何となく今までのやり取りの中で察していた。それでもその『終わったこと』は真宵のことを蝕み続けている。いつか取り返しのつかないところまでいかないか、赤林はそれが心配だった。

たとえばこの異常な食欲。ストレスからくるものなのか、病気なのか。一度それとなく四木を通して岸谷に頼み真宵のことを診てもらったことはあるが、サプリメントと称して薬を与えてみても改善はなかった。(そもそも真宵の母は大きな病院の医者であるため、愛娘のために既に手を尽くした後であったことは後から知ったことである。)

『真宵ちゃんが食に縛られている原因が、何かあるはずなんです。ですが原因が分からない限り、どうすることもできませんよ。真宵ちゃんも原因について心当たりというか、まあぶっちゃけ原因は分かってるみたいですけどそれを話すつもりもないみたいだし、真宵ちゃんは今のままがいいみたいです。今のところ、食べすぎることによって体に害が出ているわけではないですからね』
と、岸谷はそう言った。

「ホント、何不自由ない生活を送ってほしいもんだ」

真宵の食欲が不自由な事なのか違うのか、それは赤林には分からない。分からないが、

「赤林さん、今何か言いました?」
「まあね。今日の寿司はいつも以上に美味いなあ、ってな」

真宵の笑顔が心からの笑顔でありますように、と。勝手に祈るのである。









福はそと、鬼はうち
2017/04/10

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