歪愛

□近くて遠い
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「と、まあこんな感じかな!」
「な、この人面白いだろ?」
「いやいやいや!!それより頭の怪我は大丈夫だったんですか!?!?」
「ノープロブレム!1日経てばこんな怪我すっかり完治さ」

池袋のとあるばくだん焼き屋の前。ばくだん焼きを食べながら真宵が話すのは、平和島静雄との邂逅である。年下の友人である紀田正臣と、正臣の友人である竜ヶ峰帝人にばったり出会い、気づけば静雄と交流し始めたときのことを語っていたのだ。今思うと、あの出会いはある意味奇跡的であったかもしれない。

真宵自体、池袋の住人らしく今まで静雄のことは避けて通ってきた。「あの」折原臨也と知り合いというだけで(いくら静雄が臨也のことを嫌っていたとしても)好ましくない上に、道路標識を引っこ抜いたり自動販売機をぶん投げたりと危険でしかない。そう思っていた。それが、蓋を開けてみたらどうだ。物静かで、優しい瞳を持つ男の人。ぐらぐらと痛む頭で、真宵は平和島静雄を『恐怖の対象』で見ていたことを心の中で謝罪した。なんてことない、平和島静雄はただの優しい青年だった。

「そういや真宵さんって平和島静雄のこと、怒らせたこと無いってマジ?」
「紀田くんさあ、静雄さんのこと何だと思ってんの。静雄さんは元来静かで穏やかな人だよ」
「でも沸点はめちゃくちゃ低いんだろ?」
「それは否定しないけど。でも、静雄さんの上司であるトムさんだって静雄さんのこと怒らせたことないし。先生だってたまーに静雄さんのこと茶化して怒らせはするけど、引き際を分かってるから、静雄さんがキレる前にちゃんと謝るし…いやでもサイモンは静雄さんを怒らす天才かも…」

静雄が嫌いなのは基本的にぐだぐだと言葉を並べ立てるお喋りな人間だ。そう、折原臨也のような、というより、折原臨也である。真宵も折原のことは全く快く思っていないため、折原の名を出すことは日常生活めったなことがない限りない。静雄を怒らすなんて、普通に接していればまずありえないことなのだ。

「うーん、このままでは紀田くんのせいで静雄さんの株が下がっていきそう。竜ヶ峰くんのためにも何か静雄さんの良い所…」
「べ、別に僕はそんなこと…」
「あ、静雄さん子ども舌だからビールが苦くて飲めないんだよね。プリンみたいな、甘いものが好きなんだ!可愛いでしょ!」
「ウソだろ…」

紀田は今までのおちゃらけた顔から一変。真顔でツッコミを入れたのだった。

***

「しーずおさん」
「おお、真宵」

自宅に帰る途中。コンビニの目の前で煙草を吸っている静雄を見かけた。静雄を見かけると、遠くに居ようとあいさつをしに行くのが当たり前になっていた。静雄も静雄で、真宵が近づくと煙草の火を消し、飴を与えてやるのがいつしか習慣となった。ぱかりと口を開ける春日に、フルーツキャンディをその口に放り込んでやる。ランダムに与えられるそれが真宵は楽しみらしく、そのときの味を嬉しそうに声に出す。今日はグレープ味だったのか、「グレープ!」と声に出した後ころころと飴を口の中で転がし始めた。

「今日は帰りが遅いな」
「お友達と話してて、気づいたらこんな時間になってたんです」
「そうか。………おいどうした、俺の顔をじっと見て」

ころころと、飴を舐めながらじっと静雄の顔を見る真宵。静雄は長身だ。いくらヒールの高い靴を履いたとしても、真宵は自然と静雄を見上げる形となってしまう。いつも真宵は真っ直ぐと相手の顔を見て話すが、無言で見つめられることはなかなか無い。妙な居心地の悪さを感じた静雄はそっと真宵から視線を逸らした。

「あ、いや不躾に見てごめんなさい。静雄さんは優しいなあって改めて思って」
「…本当にお前は変なやつだよな」
「えぇ?そんなことないですよ!」

そう言って、無邪気に笑う真宵。静雄は彼女の頭を撫でようと少しだけ腕を動かしたが、その掌が彼女の頭の上へと行くことは無かった。








近くて遠い
2017/04/06


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