歪愛

□ウソツキな人
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***


「あのね、真宵ちゃん」
「なーに、若菜ちゃん」

夕食後は渡草に若菜が住んでいるマンションまで送ってもらい、その日はそれで狩沢達と別れた。真宵は、今日は若菜の部屋に泊まる予定だったため、そのまま部屋に上がり込んだのである。今は乾燥で割れやすくなってしまったという若菜の爪の手入れを、真宵はしてやっているのだった。

「あの、真宵ちゃん。やっぱり病院に行った方がいいと思うの」
「なんで?私、元気だよ」
「元気かもだけど、真宵ちゃんが食べるご飯の量はちょっと多すぎるよ」

爪の甘皮を取り切り、今度はヤスリで爪の長さと形を整えていく。段々と揃えられていく爪を横目に、若菜は説得を続けた。

「聞いて、真宵ちゃん。さっきは狩沢さん達がいたから言わなかったけど、真宵ちゃんが何かを食べる量は、昔よりずっと増えてるよ。真宵ちゃんだって本当は分かってるでしょ?断言はできないけど、そうなった理由も、きっかけも―…」
「私は今を満足してるからいいんだよ。そりゃ出費は増えたけど、どうにかなってる。私はもう、子供じゃないんだ。自分のことは自分でなんとかする」

ね?と若菜に笑いかけたその瞳は、全く笑っていなかった。これ以上、何を言ってもダメだと気づいた若菜は、しゅんと項垂れる。その間にも、若菜の爪は丁寧に手入れをされ続けていた。今は、仕上げのキューティクルエッセンスを爪に揉みこんでいるところである。

「心配かけてごめん。でも、本当に若菜ちゃんが心配するようなことは何も無いんだよ」
「…嘘」
「嘘じゃないよ」

はい、爪のお手入れオッケー。そう言って真宵は背筋を伸ばし、道具をしまい始めた。まだシャワーを浴びていない真宵は、そのまま鼻歌を歌いながら浴室へと消えて行ったのである。若菜はそれを見送り、そのままベッドに背中を預け、綺麗になった自分の爪を見つめる。つやつやと光るそれは、どこまでも繊細で丁寧で。

「…真宵ちゃんのウソツキ」

若菜はそう呟き、近くにあったクッションに顔を埋めたのだった。






ウソツキな人





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2014/12/26

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