歪愛

□愛に拒絶と軽蔑を
1ページ/3ページ



愛、とは一体何なのか。少女は、食に依存する直前に愛について考えた。自分の掌を見つめ、生きていることを噛みしめながら考える。掌から視線を上へと動かせば、点滴を打たれている腕が目に入った。母がしてくれたものだ。お母さんは大袈裟だなあと少女は思う。そして、私を心配してくれているんだなあ、とも。そう、少女は母親から大変愛されていた。家族愛である。

では、彼はなんだったのか。少女は考える。彼は少女を愛していると言った。出会ったときより、ずっと深く、低く、引きずり込むような声で、愛している、と。少女は彼の愛に恐怖した。思っているものと違った。今まで囁かれていた愛とも違った。もっと甘く、羽が生えたように軽やかで、優しいもの…だった筈なのだ。少女は分からなくなった。母の愛は理解できる。けれど、異性から向けられる愛は、彼の愛は、いったいなんだったのか。考えて、考え抜いて、それでも分からなくて、そして少女は、考えるのをやめた。

「愛にも色々あるだろうけど、とりあえず私はいらないや」

それが、少女の結論だった。

***

「ジャンクフードって、たまにめちゃくちゃ食べたくなりますよね」
「そうかあ?俺らほとんどジャンクフードだもんな」
「そっすね。真宵は母さんに止められてるもんな、ジャンクフード食うの」

世間はリッパーナイトの話で持ちきりではあるが、池袋は今日も変わらず動いている。今日は土曜日。バイトに行く前に食事を済ましてしまおうと思った真宵は、ガラス越しのモスの店内に静雄とトムがいるのを見つけた。たまにはジャンクフードも良いかと思い、そのまま店内に入っていったのである。

「はい。昔ハンバーガー10個とポテトLサイズ5個を毎日食べているのがバレて、それ以来禁止にされました。食べられても月に1回くらいです」
「そりゃ禁止されるわ」

トムはそう言って苦笑した。最初こそ真宵の食欲に驚いていたものの、最近では慣れてしまった。まあ、真宵ちゃんだし。で、済むことが多くなった気がする。しかし最近それよりも、他に気になることができてしまったのである。

「静雄さん、オレンジジュース頼んだんですか?」
「まあな。なんだ、欲しいのか?ほら」
「やった!」

これだ。待て。待って。ちょっと待ってお前ら。トムは心の中でストップをかける。静雄が途中まで飲んでいたジュースのストローに、真宵は何の抵抗もなく口をつけたのだ。高校生でもそんな恥ずかしいことしないぞ!恥じらいはないのか!

…そう。これが最近の気になることなのである。真宵と静雄の距離が近いのだ。男女の友達ってこんなかんじだったろうか、いやそんなことは無かった筈だ。と、首を傾げるくらい近いのだ。

「(いや、まさか俺の知らない所でこいつら付き合って…!?いや、そんな素振りは見せなかったから無いか…静雄は顔に出やすいからな…)」

普段は大人しく物静かな静雄であるが、嬉しいことがあったりすると、声の調子が高くなるといったように案外分かりやすい。彼女ができてもきっと隠し通すことはできないだろう。

「(そういや真宵ちゃんも美人な顔立ちしてるけど、浮ついた話は聞かねえよな…)」

茶色に染められた髪はおだんご頭にし、服装はカジュアルなものが多いため活発な雰囲気を醸し出している。そして会った人間のほとんどが好感を持ちそうな、明るい笑顔。聞けば友達も多いらしく、彼氏くらいいてもおかしくなさそうな気もするが、今までそんな話を聞いたこともない。ちら、と再度真宵と静雄の方を見ると、今度はふざけて真宵が静雄にポテトを食べさせてやっていた。

「(カップルかよ!)」

口に出して突っ込まなかったトムを、誰か褒めてあげて欲しいものである。


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ