歪愛

□福はそと、鬼はうち
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「大食らいのお嬢ちゃんがいるなあ」
「ほへっ?んぐ、赤林さん!」

バイト代が入り、真宵は露西亜寿司でいつものように30貫入った重箱を抱えて新鮮な寿司を食していた。本当は母と共に食べに来る予定であったが、母は急患が入ってしまって1人でくることになったのだ。いつもはあまり座らない、店の入口近くのカウンターに座っていたため赤林の目にいち早く止まったのだ。

「赤林さんもご飯ですか?」
「そうそう、おいちゃん今すっごくお魚さんの気分でねえ。真宵ちゃん、隣いいかい?」
「大歓迎です!1人で食べるのはちょっと寂しかったので!」

そいじゃ、失礼しますよっと。そう言いながら、赤林は真宵の隣に座った。適当に寿司を頼み、まずは熱い茶を口に含んで喉を潤した。

「赤林さんに会うの、何だか久しぶりですね!」
「半年ぶりかねえ。元気そうで何よりだ」

赤林と出会ったのは、それこそ真宵が静雄と出会って少ししてからのことだった。真宵が静雄と交流を始めて暫くすると、静雄に恨みを持つ人間がターゲットを真宵に変えたのである。平和島静雄の女。真宵は当初そう勘違いされたものだ。その時の詳しいことについては割愛するが、簡単に言うと赤林が関わる店の付近で真宵が静雄に恨みを持つチンピラに攫われそうになったところを赤林が助けたのだ。ついでにいうと、赤林が露西亜寿司にカニを提供していると知って、真宵は助けてもらったのと相まってさらに懐いたわけだが。

「それはそうと真宵ちゃん。おいちゃんがあげたアレはちゃーんと持ってるかい?」
「勿論ですよ!自分の身は自分で守らないと、赤林さんみたいないい人がいつでもどこでもいるわけじゃないですからね」
「よしよし、いい子いい子」

真宵の言葉に赤林は目を細めて笑いながら頭を撫でてやる。二十歳を迎えたと言うのに、真宵は赤林のこの子ども扱いを特には嫌がらない。だからこそ赤林もついつい子どもに接するようにしてしまうのだ。

「アレ、って何だい。まさか赤林の大将、危ねえもん嬢ちゃんに渡してんじゃないよな」

赤林の前に寿司を置きながら、デニスはやや胡乱げな目で赤林を見る。真宵は一般人で、露西亜寿司の常連である。美味しそうに寿司を食べるさまを見ているデニスにも、真宵に対して情があった。

「大丈夫だよ、店長!赤林さんがくれたのはこれだから!」

そう言って真宵が取り出したのは、スタンガンだった。

「赤林さんに言われた通り、本当の本当に困ったときにしか使わないようにしてるから、今まで1回くらいしか使ったことないですもん!」
「そっちの方が相手も油断するしな。しょっちゅう取り出してちゃ相手も警戒するってもんよ。よーし、いい子な真宵ちゃんには、おいちゃんが寿司を10貫ほど追加してあげちゃおっかな〜」
「わぁ!赤林さん大好き!」
「こんな若い子に大好きなんて言われちゃ照れるねぇ!」

赤林は真宵に妙に甘い。いや真宵に限ったことではないが、とにかく甘い。ロリコンだなんだのと言われるのもやむなしだな、とデニスは呆れながら真宵の目の前に寿司をさらに10貫置いてやったのである。


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