歪愛

□近くて遠い
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それは記憶。傍にいて、体温を感じて、確かに私は恋をしていた。すこし舐めるだけで口の中にじんわりと広がる、甘い甘いいちごドロップのような味。幸せな味。それがあの日を境に恐怖へと変わってしまった。人が人に執着する様子を間近で見て、気持ちが悪くなった。私には甘すぎて、胸やけをおこしてしまった。恋は人を変える。良い方にも、悪い方にも。あの子は悪い方に変わってしまった。みんながみんな、恋をしたらあの子みたいに変わってしまうなんて思ってなんていやしない。けれど、一歩間違えればあの子みたいになってしまうのだと思っている。何を間違えた?あの子が耳を貸した言葉?環境?…それとも私?甘かったいちごドロップはどろどろに溶け、薄っすらとしたピンク色も赤へ赤へと変色した。血の味がしたそのドロップは、私には到底口に含むことなどできやしなかったのだ。

***

平和島静雄が如月真宵に出会ったのは、まだ彼女が高校の制服に身を包んでいたときのことだった。いつものように彼の天敵である折原臨也を目の端に捉え、いつものように近くにあった道路標識を引っこ抜き、いつものようにソレを折原にぶん投げた。そして周りにいた人間は、巻き込まれまいといつものように慌てて2人から距離を置いて被害から逃れるようにその身を守った。

いつもと違ったのは、耳にイヤホンをしてお気に入りの音楽を聞いて、騒ぎに気付くことが出来なかった女子高生がいたことだった。周りの人間が逃げ惑う中、女子高生は逃げる対応が遅れてしまった。そして運が悪いことに、折原に向かって投げられた道路標識は、棒の部分だけ地面に突き刺さり頭の標識部分が外れてしまったのだ。吹っ飛ぶ標識。そしてその近くにいたのがこれまた運が悪いことに、先ほど逃げ遅れた女子高生で、標識はそのまま彼女の頭の上に落下したのだ。幸いなことに標識の縁の部分が頭にあたって皮膚をパックリ切ってしまった…なんて事態は避けられた。しかし標識の平たい部分がそのまま脳天に直撃したのである。相当な負荷が頭にかかったらしく、女子高生はそのまま気を失ったのだ。

さすがの静雄も人一人倒れたのを見止めて、サッと全身から血の気が引いた。折原のことなどもう頭になかった。彼は慌てて近づき女子高生の体をゆさぶる。反応はない。ここで普通は救急車を呼ぶところではあるが…、彼は違った。女子高生の体を横抱きに抱き上げ、走り出したのである。彼には救急車よりももっと身近に(闇)医者という職についた友人がいたため、彼の家へと全力で走ったのだ。

そしてその友人が女子高生に下した結果は脳震盪。頭を打った人間を抱えて走って来るなんて、頭に響くようなことは今度からはしないようにと怒られた。正論である。そして…。

「…あ、目が覚めたかい。気分はどうかな。きみ、頭打って倒れちゃったんだけど覚えてる?」
「道路標識が頭に直撃するとか人生に無い経験!すんごぉい!」
「は、」

幸か不幸か―…。思った以上に女子高生は変な子であった。これが平和島静雄と如月真宵、そしてついでに岸谷新羅のファーストコンタクトだった。


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