ニートと警察官

□すべてすべて、風邪のせい
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駒鳥が風邪をひいた。朝なかなか起きてこない彼女の布団を引っぺ剥がそうとしたところ、ぐったりとした駒鳥を降谷が見つけたのだ。

「う゛〜...死ぬうう...」
「8度1分と高めですけど、死にはしませんよ」
「うえええ〜私の平熱5度なのに〜やっぱ死ぬ〜」
「はいはい」

赤い顔をしてうんうん唸る駒鳥だが、口はよく回っている。思ったより元気そうだ。冷蔵庫で冷やしたタオルを駒鳥がのうなじへとあてれば、「うひぃ〜」と色気のない声があがった。

「食欲はありますか?」
「びっくりするほど無いよ。え、なに、食べなきゃダメなの?」
「当たり前ですよ。無理にでも食べて薬を飲んでもらわないと」
「鬼だ...」

そう言うや否や、駒鳥はもぞもぞと布団に潜ってしまった。布団に潜り込んで、朝食を取るという恐ろしい行為を回避しようとしているらしい。時折ケホケホと咳き込み、丸まった布団がそれに合わせて揺れる。これはうどんや雑炊といったものは食べないな、と瞬時に判断した降谷は、キッチンに行きあるものを冷蔵庫から取り出して駒鳥の元に戻ってきた。

「駒鳥さん、プリンなら食べれるでしょう?」
「ぷりん...。え...風邪の時にプリンって食べてもいいもんなの?」

プリン、という言葉を聞いて、駒鳥はひょっこりを布団から顔を出す。降谷の手にあるものは黄色くて甘い、まさにプリン。降谷はプリンという単語で簡単に布団から顔を出した駒鳥を見て、作戦成功、と心の中でガッツポーズをした。事実プリンは風邪の時に食べても問題無い食べ物である。アイスやゼリーも食べやすさから重宝されるが、プリンは特に炭水化物・脂質・ミネラル・タンパク質と、三大栄養素が含まれている。原材料に卵や牛乳、糖類を使用しているため当然といえば当然なのだが。

「ええ、風邪の時に必要な栄養素が入っていますから。さあ、プリンを食べて薬を飲んで寝てください」
「...はぁい」

駒鳥が大人しくスプーンを持ってプリンを食べ始めたのを見て、降谷は再びキッチンに戻る。冷えピタと、スポーツドリンクを手に取り少し考える。咳をしていたのと少し声がおかしかったから、もしかすると喉をやられているかもしれない。となると、蜂蜜と生姜とできれば林檎を使った飲み物も作りたいところである。

「...リンゴと蜂蜜が無いな」

生姜湯でもいいが、駒鳥は生姜自体あまり好きではないため飲んでくれない可能性がある。これは1度買出しに出た方がいいかもしれない。そう思った降谷は他に買うものはないか確認していたところ、後ろから扉が開く音に顔を上げた。そこに立っていたのは、言わずもがな駒鳥であった。

「降谷くん」
「!...駒鳥さん。どうしたんですか?寝てなきゃダメじゃないですか」

降谷はキッチンへとやってきた駒鳥を軽くたしなめて、彼女が持ってきたプリンの容器を受け取り軽く洗ってゴミ箱に捨てた。

「ぷりん食べたらげんきになった!」
「そんなはずないでしょう?」
「おうっ、」

ぺちり、と叩いた額はやはり熱い。手に持っていた冷えピタをすぐ貼ってやれば、気持ちよさそうに駒鳥は目を細めた。

「降谷くん、今日は警視庁いくんでしょ?私のことは気にしなくていいから行ってきなよ」
「そういう訳にはいきませんよ。別に警視庁へ行くのは今日でなくてもいいですし」
「だーめ。今日はポアロも休み、探偵業も依頼なし!公安の仕事もとくになし、組織からのお達しもない!お休みのときに出来ることやっておかないと。降谷くんはただでさえ忙しいんだから。ね?」

駒鳥は、熱のせいか目元を潤ませながらそう言った。いつもよりずっとまともな事を言っているような気がするが、これも熱のせいなのであろうか。と、少々失礼なことを降谷は考える。しかし手にあるスポーツドリンクを取られて「駒鳥は大人しく寝まぁす」と言われれば、逆に気を遣わせてしまった駒鳥に対して悪いかと思い直した。

「では、お言葉に甘えて。ですが駒鳥さん。昼までには帰ってきますから、何かあったら電話してください」
「大人しく寝てるだけなのに、何かあるわけないでしょーに。でも、ありがとう。いってらっしゃい」
緩く手を振って、ベッドがある部屋へと消える駒鳥。彼女が部屋へと入っていくのを見届けて、降谷も出かける準備を初めたのだった。


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