ニートと警察官

□ニートの朝
1ページ/1ページ



ニートの朝は早い。

「さあ、駒鳥さん。朝ですよ、起きてください!」
「ん〜...あと5分...」

紺色のカーテンを勢いよく開ければ、太陽の日差しが部屋いっぱいに広がった。それでもまだもぞもぞと布団の中で寝入りなおそうとする駒鳥のそばにより、降谷はその布団さえも剥ぎ取った。

「うううう...殺生な〜...」

胎児のように丸くなるも、布団がなければゆっくり眠ることも難しい。やがて諦めたのか、暫くシーツの上で伸び縮みしていた駒鳥も、ゆっくりベッドから降りたのである。
このやり取りも、もう何度目か。黒く長い髪を揺らしながら目元を擦る美女、駒鳥。当然本名ではないが、本名は降谷も知らない。彼女はとある事情により降谷と同居している情報屋である。今は休業中のため、自らニートと名乗っているが詳しい説明は今回は割愛する。

「きっと私は世界中のニートの中で1番早起きだよ...」

くあ、とアクビをしながら忙しなく動く降谷を駒鳥はベッドに腰掛けぼんやり眺めていた。今日彼は朝から警察庁に呼ばれているらしく、そろそろ出勤しなければいけないはずだ。このままぼんやりしているのもいいが、そろそろ降谷から着替えろとの司令がきそうである。言われる前にやってしまおう、とパジャマ代わりにしている短パンを脱ぎ、ジャージに着替えた駒鳥。その丁度のタイミングで降谷がひょいと顔を覗かせた。

「あ、駒鳥さん!ちゃんと着替えてくださいよ!」
「いやいや待とうか降谷くん。見て、珍しく着替えてる。珍しく着替えてるよ私」
「ジャージは着替えたうちに入りませんよ。さ、それより先に朝食にしましょう」
「解せぬ...」

どうせ外に出ないのだから、ジャージでいいじゃん...とぶつぶつ言う駒鳥を座らせ、降谷は目の前に皿を並べていく。

「今日はホットサンドと玉子スープです」
「わーお、美味しそう!いただきまーす!」

ホットサンドの中身はスタンダードなハムチーズと、後は昨日の夕飯の残りであろう金平ごぼうが具として入っている。金平ごぼうの方が気になりまずはこちらから口に入れてみると、これがなかなか合うのであるから不思議である。

「んーっ、美味しい!」
「それはよかった」

幸せそうにホットサンドを頬張る駒鳥のそばに、紅茶のマグカップを置く降谷。至れり尽せりである。

「駒鳥さん」
「んー?」
「僕、今日はもう行かなければいけないんで後のことはお願いします。とりあえず歯を磨いて顔を洗うまではしてくださいね。お皿はほっといてもらっていいんで」
「んー」

聞いているのかいないのか。口をもごもごとひたすら動かす駒鳥に、少し呆れたように笑った降谷。駒鳥の口の端についたケチャップをぬぐってやる。

「行ってきます」
「ん、いってらっしゃい」

降谷の方を見てひらりと片手をふる駒鳥に、降谷は形容し難い多幸感を胸に部屋を出たのであった。



ニートの朝
2016/05/17


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ