歪愛

□蝕に食われる
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まずは、如月真宵について語ってみよう。あの子とは出会ってまだ1年ほどしか経っていないため、私が語れるほどあの子に関して知っている情報というのはほとんど無いに等しいかもしれない。けれどまあ、とにかく聞いて欲しい。如月真宵という人間は、一文字で表すと「食」である。

食、食物を食べる。生き物が生きていく上で大切な行為、欲求の1つでもあるそれ。彼女はそれが顕著であるのだ。食べて、食べて、食べまくる。私が彼女を見るときは、大抵その手に何かしらの食べ物があり、口の中で咀嚼している途中である。一度、なぜそんなに食べるのかと聞いたら「セルティ、私は大食いキャラなんだよ!」とサムズアップしながら言われた。つまりあの子は一度に食べる量が多い、もしくは常にお腹を空かせているということになる。

「食、という言葉は食べること以外でも使われるよセルティ」
『たとえば?』
「月食、日食、腐食、浸食。こういう字は、『食』という言葉ではなく『蝕』と書くこともあるんだ。『蝕』、つまり蝕む、欠ける、削られるという意味だね。『食』という字はそんな意味合いも持っているんだ。あの子に対して「食」1文字で表すことは、良い意味でも悪い意味でも言い得て妙だね」

つまり彼、新羅は真宵のことを、食べることが彼女を蝕んでいるとでも言いたいのだろうか。少し私には意味が分からなかった。食べることは生物にとって重要なことだ。彼女はそれを行っているのであって、別段おかしいわけではない。そりゃもちろん、食べる量は尋常じゃない。それくらい私にも分かる。けれど、腹が減ればなにかを口にしたいという思いはおかしなことではないはずだ。

……と、真宵に出会った当初はそんなことを思っていたが、今はまるっきり違うことを今この場でお伝えしておこう。彼女は満たされない。食べても食べても満たされない。だから食べるのだ。今なら新羅が言いたいことが、少しだけ分かる。真宵は、あの子は、満たされない「何か」を「食」で補おうとしているのだ。それが正しいことかどうかは分からない。分からないが、食べて食べて食べ続けているその姿を見ると、おそらく、そう、あの子はきっと満たされていないんだ。


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