+++SKB二次

□PART TIME LOVER
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冴えない気分のままに昼下がり。
時計を見れば丁度昼時なのに俺はそんな事さえ他人事に感じてた。


生暖かく流動しない部屋の空気が纏わり付くようで思わずシャツを脱ぎ捨てジーンズ一丁で床に寝転がった。

喰う――何を喰うんだ。
またあの味気無いコンビニ弁当か…。

悲しかろうと嬉しかろうと腹は減る。
体だけが勝手に飢えて唸り声を上げるのに心が付いていかない。

まるで世界中に在る食べ物全てを認識出来なくなった様に…いや、食べ物だけじゃなくて…世界の色味すら認識出来ている気がしなかった。味気ない。味気ない。味気ない。足りない。

――足りないのは…

「…クッ!…」思わず笑った。噴出す様に笑った。
俺は―檻の中のネズミみたいだ。これ以上間抜けな事なんて無いだろう。

ずっと硝子一枚、いや、柵の何本か――か。
真実も言いたい事もあと一歩。目の前に見えて居るのに触れなくてウロウロとその側を離れる事も出来ずに見てるだけで――何も出来ない。

もう伝える相手すら居ないこの場所で。
アイツの使ってたシャンプーか何かの残り香だけが僅かに残るこの場所で。

「家、、出よ」
テーブルの上の携帯を探り画面にマネージャーの名前を表示させコール音に耳を澄ます。耳障りな音が室内に響き思わず俺は受話音量を下げた。
静けさに際立つ雑音が息苦しい。

「如何したの?私、まだ帰れないわよ?」

今の今までその存在を忘れて居た癖に
相変わらずの仕事人間ぶりが妙に俺を安心させた。

「いや…別に…」
「まさかキョーコちゃんまで導入して進んでない、何て…」
「それは無い」
「じゃぁ大分ストック出来たの?」

出来た、と答えようとしたものの何かが引っかかって…

そうだーー!

「キョーコから仕事を辞退するとかそんな電話在っただろ?あの根性無しが…」
「やだ、喧嘩でもしたの?仲良いわね。でも無いわよ、そんな連絡…」

あいつが仕事で休む…なんて考えもしなかったから(それも考えつかないが無断欠勤よりは可能性を感じる)俺はてっきり辞めたのだと思ってた。

茹だる程の熱が在る日でも座敷に出て働いてたキョーコだぞ。プロ意識は半端ねー奴だ。引き受けてる限りは例え意識が無かろうが
両足が折れてようが這ってでも来る筈だ。

昨日は「明日は仕事も学校も休みだから…」って…

だとしたら――


――だとしたら?
来るに来れない状況になってるとしか考えられないじゃないか!


犬(ビーグル)か敦賀かそれとも別の誰かか――
それでも連絡位入れれるだろうし、アイツに俺の携帯は教えて在る。


「助けて!」は無いにしろコール位は…

ビーグルなら遭えて見せ付ける為に電話させてくる事は考えられてもコールを邪魔するとは考えられない。

俺の知らない奴に絡まれてたら…
敦賀なら……アイツを傷つける様な事はしないだろう。おかしな話だが、こんな時自分の本心がよく分かる。

もし敦賀がアイツを引き止めてたとしたら…嫌だが、他の男よりは安心できる気がしてるらしいのが酷く気に障ったが今はそんな事考えてる場合じゃない。

何より最悪なパターンは事故にあって…連絡付かなくて――あぁぁぁぁあああぁあぁぁ!――キョーコ!キョーコ!キョーコ!

早く、助けないと――俺は一生後悔する。


「頼む!祥子さん!アイツの携帯!住所でも良い!敦賀のでも良い!」
「いくら貴方でも本人の許可無しに教える訳には…貴方が直接…」

俺は思わず叫び、祥子さんは声の調子を非常事態に切り替えた。

「悪戯じゃないわよね?!尚。番号言うわよ!」

俺は返事もせずに番号を控え電話を切った。
その勢いでキョーコに掛けるがコール音が響くばかりだった。

「クソッッ!」

今思えば、あの時俺は完全にパニくってた。
躊躇も無く、しかしながら携帯は折り返しキョーコからの連絡が在ったら通話中では困るから家にある電話で敦賀の携帯を鳴らした。

訝しげな声が受話器から聞こえてくるなり俺は名乗りもせずに言葉を捲くし立てた。あんな状況にも関わらず言葉を噛まなかったのは流石俺と言えよう。

「キョーコは其処に居るのか?」
「――相変わらず君は挨拶も…」
「それ所じゃねーー!居ねーんだ!連絡つかねーんだ!仕事ほっぽり出して行方不明だよ!緊急事態以外何が考えられる!お前の所に居ねーのかよ!」

「お前、今何処に居る!」
敦賀の声が瞬時に緊張を帯びる。いつだってスカして「君は――」とか言う奴が
そんな余裕も無いのか言葉が荒い。

「家だ!×××の×××だ!」
「じゃあ其処から一番近い国道沿いで立ってろ!拾うから
話は車の中で、だ」

俺が誰と話してるのか、何を話してるのか、関係性が如何とか如何でも良かった。
とにかくキョーコの顔を見て無事を確認しないと頭が如何にかなりそうだった。
その為なら何だって出来た。プライドがなんだ、格好がなんだ!

例え誰かに傷物にされてようが、腕が、足が一、二本無くなって様が無事ならそれで――誰がどう言おうが俺が全部受け止めてやる。

――生きててくれ!キョーコ!

取る物も取らずに鍵と携帯だけ持って俺は敦賀の指示に従う為に走った。
擦れ違う人が指差すが気にしてる余裕も無い。

指示通りの場所に着くなり派手なブレーキ鳴きをさせ敦賀の乗る車が止まり俺はすぐに乗り込んだ。

「とりあえず事の流れを話しながら…後部座席においてる
ジャケットを着てくれ。初めて週刊誌に載るのが君とのホモ説では
余りにも悲しい」

そう言われて俺は初めて上半身裸で失踪してた事に気が付いた。

…とは言え衣装で露出には慣れてるので今更恥じる神経も無く、しかしながら俺もホモ説を流されるのは嫌なので大人しくその言葉い従った。

「アイツには家政婦をやってもらってた。ちゃんとした仕事だ。
連絡無しに昨日休んだ。俺はてっきり俺を嫌って仕事を蹴ったのかと思ってたけど
マネージャーはそんな連絡入ってないと…」
「それは――緊急事態だな…」
「お前なら兎も角、変な虫に監禁とか…お前なら取らないか?携帯…」
「さっき掛けたが留守電に繋がった」
「そうか…」

苛立ちから思わず足を揺する。敦賀はそんな俺を横目で見ると
「気持ちは分かるが体力は温存しておけ」と嗜めた。

「もし何か事件の撒き沿いを食らってるなら暴れる事も…」
「分かってんだよ!」
「椹さんと社長にも確認したが特に緊急の仕事が入った訳ではないらしい。彼女の居候している家に確認したら朝に着の身着のままでふらっと出かけていったらしい。とりあえずその付近を流しながら探してみようと思う」

「頼む」
「仕事でも特に煮詰まった事は無いし、友人とも巧くやってる…って事は…」
「お前!何かちょっかい掛けたんじゃねーだろうな!」
「それはこっちの台詞だ」

視線は互いに窓の外に居るかも知れないキョーコを探して彷徨わせながら
俺達はここぞとばかりに言い合った。

「俺は――あんなのちょっかいなんて言うレベルじゃねーよ!ディープキスでさえ無かった事にされたんだぞ!」

敦賀が車のスピードを急に上げたから俺はデッキボードに頭を打った。
俺がアイツを睨み、アイツは目の端で俺を睨んだ。

「とりあえず探すのが最優先だ」
「探してるよ!」
「――で何をした?」
「デコにちょっとキスしただけだよ!」
「――彼女を…これ以上振り回すな!」

敦賀の声が荒くなる。

「俺だって振り回したくねーよ!お前だって人の事言えねーじゃねーかよ!
俺の家に来てるのがバレたら…って仕事で来てるのにお前の着信にびくびくして…
自分の感情もコントロール出来てねーじゃねーかよ!情けねぇ!」

途中からアイツに苦言を呈しているのか自分に呈しているのか分からなくなっていた。

「自分が――こんなに情けないとは思わなかったよ」
珍しくアイツが苦い顔をした。

「いや…分かるんだけど…」
アイツの苦い気持ちが自分のソレと呼応した様に大きくなり不意にそんな言葉を吐いた。

「俺だって…そうだから」
「そうか…」

沈黙が車内を占める。途中何度かキョーコらしい姿を見かけたがそれは似ていながら全然別人だった。

「俺に訳分からない事されて、敦賀に当たられて…
悩んだのかも知れないな…」
「彼女が悩んでたのなら…」
「俺、アイツが悩んだり困ったりした時にふらっと消えた先を
探せた事、無いんだよなぁ…」

「川…かな…」
「この辺に川なんて…相当歩かないと…」
「彼女なら…やりかね無い」
「だな」

敦賀と俺は視線を交わし、互いに頷いた。
別に居場所を特定できた訳では無いのに変な確信があった。

アイツの住む家から大分、普通の人なら歩こうと思わない位遠くに割と寂れた植物園が在った。人口では無い小川があり、それを挟む様に薔薇だとか…何だ。俺は花に詳しくねーから分からないが色々在るらしい場所だった。

その植物園の受付の人は客が少ないからだろうか、居眠りをしていたが叩き起こしてキョーコの容姿を伝え、中に居るか聞いてみた。

「さぁ…そんな子入った記憶が在るけど開館した直後だからねぇ…もう何時間も経ってるし、普通はもう帰ってるねぇ」
「――大人二枚」

そう言いながらズボンのポケットを探って初めて俺は財布を持って来ていなかった事に気が付いたが幸い敦賀が持っていたので助かった。

「キョーコは普通じゃねーんだよ!」
俺が歩きながら小さくそう愚痴ると
「確かに。普通じゃないね、でも…」――そこが良い。

別にタイミングを合わせた訳じゃなかったが合ってしまった。それが恥かしくて早く歩いたが足の長さ差か全然差が広がらない。くそ。

写真が飾られたくそ長い廊下を抜け温室へ。
湿気が体を包み込んで少し不快だった。

――此処には…居ない。

「きっと川の近くに居る」
「じゃぁここ抜けてもっと真っ直ぐだ。割と遠い」

通りすがりに壁に掛かった地図を見ながら俺達は小走りで
そこに向かった。



【続く】
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