嗚呼、

□なぜでしょう
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今日は部活。部長として張り切っている(ようにみえる)宮地くんを横目に、月子ちゃんとどちらが多く当てられるかを競った。月子ちゃんは上手いから、なんで誘われたかわからないけど、きっと月子ちゃんなりの励まし方なんだろうな。やばい、涙出てくる。

びしっといい音がして、的を見れば月子ちゃんとあたしは一緒だった。「引き分けだね。」なんて笑う月子ちゃんと一緒に笑えば宮地くんに怒られた。ちょっと張り切りすぎだよ。前より怖さ二割増。

「先輩!金久保部長にふられたって本当ですか!?」

くすくす笑いあっていた月子ちゃんとあたしの間にわって入ってきた梓くんは、あたしの肩を掴むなり、とんでもないことを言ってくれた。

もちろん、事情を知らない子が多い。あの宮地くんでさえ、矢を外してしまったのだ。というよりこういう類の話には弱かったんだね、やっぱり。

あたしは問題発言をした梓くんの手をゆっくり肩から離すと、慌てている月子ちゃんに目線を送ってから梓くんを見た。



―その瞬間、あたしの背筋は凍りついた。



嗚呼、

なぜでしょう




悲しそうな目の奥で、瞳の奥で、全てを見透かしたかのように嬉しそうにしている彼を見たとき、何故かあたしの背筋は凍りついた。口角も我慢出来ないかのように少しだけあがり、下げた眉はいかにも演技らしかった。

何故、今梓くんの表情を疑ったのかはわからない。でもきっと、梓くんは嬉しくて仕方ないんだ。あたしの失恋が。これも何故だかわからない。あれ?最近わからないことが極端に増えた気がする。

…まあ、それは置いておいて。梓くんは「ねえ、どうなんですか?先輩!」と可愛く首を傾げてきた。でも、そんな仕草でさえ"怖い"としか思えない。なんだこの子。心の中に何を隠してる?一年生という幼い学年なのに、一体梓くんはどれほど大人びた考えを持っているのだろうか。あたしには想像もつかない。

「た、確かにふられたけど…それはもう過去の話で、今はちゃんと…」

しどろもどりになりながら梓くんから視線を外し、答えると、急に梓くんの表情が素直に怖くなった。放たれる不機嫌オーラは、もはや手に負えなそう。どうしたんの?と異変に気付いた月子ちゃんが心配そうに声をかける。

ふと、月子ちゃんに視線をあわせると、梓くんも月子ちゃんを見た。その時の酷く驚いた顔が頭からなかなか離れない。よほど、あたしは恐怖に満ちた顔をして、梓くんは怖い顔をしていたんだろう。もしくは、怖いぐらいの笑顔。

よく覚えてない。そのあと、何故か怖くて「先にあがります。」と返事もきかずに寮に帰った気がする。梓くんも、月子ちゃんも放って。明日、会ったら謝ろう。


きっと、今日見た梓くんは、幻だ。


「月子先輩、邪魔しないでよ。せっかく上手くいってるんだから」
「…じゃ、ま…?」

(何を言ってるの?この子…)

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