嗚呼、

□軽い人ですね
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金久保先輩にふられてから早一ヶ月が過ぎた。あれから、あたしはよく梓くんといるようになった。といっても、教室では月子ちゃん達といる。でも昼休みと部活では梓くんが隣にいることが当たり前のようになっていた。

はじめの問題発言には酷く驚いたけど、あたしを元気づけようとしてくれている様子の梓くんは大変微笑ましい。あ、じじくさいな。でも本当に嬉しい。と、素直に喜べる。

だからこそ、薄々彼に惹かれていたのかもしれない。ふられたから一ヶ月。なんて軽い女なんだろう、あたし。もうみんなにあんな顔させたくないし、早すぎるし、そもそも梓くんはあたしにそんな感情もってない。だから、今回は胸にこっそりしのばせようと思った。



嗚呼、

軽い人ですね




「宙先輩!」

元気よく抱きついて来た梓くんに思わずきゅん、とときめく。うっ…しょうがない、だって可愛いんだもの。女は可愛いものに目がないんだってば。と誰にいいわけするわけでもないけど、赤くなったであろう頬に理由付ける。

嬉しそうに笑う彼は100点のテストをみせびらかしてきた。え?100点!?頭いー。とか呑気に考えてると、「先輩!や・く・そ・く☆」とかいって☆マークをとばしてきた。え?約束?なんの…。

そこまで考えて思い出した。あ、そうだ。思い出した。確か次のテストで100点とれたらデートするんだっけ?そう梓くんに問えばそうですよ!と元気よく答えてくれた。

…あれ?前約束したときは100点は難しいから、ないな。とか、元気づけてくれてるんだな、優しい。とか思ってたけど、今回はそれだけじゃ済まされない。なんせ、あたしの恋心がプラスされたのだから。なんてことだ。

デートなんて…あたしの心臓がもつはずない。もたない。ありえない!どうしよう…胸にこっそりしのばせたはずの想いを今すぐ誰かに伝えたくなった。月子ちゃんなら聞いてくれるかな?い、いやいや!彼女の泣きそうな顔と土萌くんの怒った顔はもう見たくない!なら、どうしろと…?!はっ、生徒会長…でもあたし、あの人と面識ないし、金久保先輩は?…っいくらなんでも気まずすぎだろ!七海くんと東月くんにももう迷惑かけたくないし、宮地くんはそういう話は出来ないし、生徒会の青空くんと天羽くんは話したことないし、先生方は無理無理無理…!

…つまりは絶対的な精神的ピンチであるわけで。………しょうがない。流れにまかせよう。となったわけである。うん、出来るかなあたし…。嬉しそうに生徒会に場所借りてきますね!という梓くんを横目に小さくため息をついた。まさか、生徒会の管理地でデートするの?!と目を見開けば、嫌ですか?じゃあ僕の部屋にします。とくるりと向きを変えた。


「え、あ…うん。」

「そんなに僕の選ぶ場所が嫌ですか?」

「ううん!違う違う、ただ、お邪魔してもいいのかなって…」

「なんでです?」

「だって、あたし…か、彼女じゃないし。」


わ、我ながら何を無意識に…!と思っているのもつかの間、梓くんは驚いた顔をして何故かにやり、と意味深気な笑顔を浮かべると「そんなのは気にしなくていいんです。」と笑った。

何故だか、あの背筋が凍るほど怖かった表情に似てる気がした。



あたしは、軽い人ですね。



(あと少し、あと少し…!)

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