novel
□ready
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聞き込みを終えて本庁へ戻る佐藤の車は、渋滞を抜けたところ。
「意外とスムーズにいきましたね。」
「そうね。今のを除けばね」
ハンドルを握っている佐藤は笑う。
「あー、インクが…」
「出ないの?」
「擦れてきてて」
「はい」
「ありが…っ」
「落とした?ごめん、道悪くて…」
高木の座席の下に落ちたペンは、奥に入ってしまったらしい。
「もうすぐ着くから、後にしましょう」
本庁の駐車場に着きシートベルトを外すと、こっちのペンまでインクが無くなる、などと言いながら素早く隙間に手を伸ばした。
そんなにすぐには無くならないわよ、と佐藤は笑っていた。
「いたた…手が入らない…」
「私が取るわ」
高木に代わり、佐藤のスラッとしている手が難なく隙間に潜り込む。
「もう少し…」
「大丈夫ですか?」
「うん…。取れた、はい。」
「ありがとうございます」
受け取らずにペンを差し出している佐藤の手を見つめる。
「…何?」
「やっぱり細いですよね」
「ペンは大体細いんじゃない?」
「違いますよ、佐藤さんの指です」
天然な返事を笑いながら返す。
「柔らかいし、女性の手って感じですよね。」
「あら、ありがとう。手くらいは女らしくて良かったわ」
微笑みながら高木にペンを握らせると、その手を掴む。
「佐藤さん?」
「高木君の手は、ゴツゴツしてて大きいわね」
「佐藤さんの手が小さいんですよ」
「…手加減したでしょ」
「え…?」
「朝の腕相撲よ。この手が弱いわけがないじゃない。」
「手加減なんてしてませんよ」
「したわよ。しかも先輩達に勝ってる手なのに」
「本気でしたよ、途中までは…」
本気と言っても、もちろん男と戦う時と同様の力加減ではないが。
「ほらやっぱりー」
「違うんですよ」
「必死に力を出してる姿がその、可愛くて…」
「…上から目線じゃない」
少し怒った様な顔をするのは照れ隠し。
「すいません…でも、それが敗因ですから」
「何が敗因よ」
少し照れながら言う高木に顔を赤らめつつ、ぶっきらぼうに返した。
「私は高木君の顔、見てないのに…」
「え?」
「何でもないわよ」
「後で腕相撲しない?」
「良いですよ」
「わざと手加減してね」
「わざと…ですか?」
「余裕ぶってる高木君が見たいの」
「ぶってはないですって」
「とにかく見たいの」
苦笑いする高木に言い続ける佐藤の顔は駄々をこねる子供の様。
「今、勤務中ですよね」
「そうよ」
「そんな表情でそんな言い方されたら、今以上に勤務中だってことを忘れちゃいます」
「どういう…」
「触れてもいいですか?」
「ばっ…」
そそくさと車を飛び出し、車の外から真っ赤な顔をして一喝する。
「馬鹿言ってないで早く仕事!」
「佐藤さん、鍵忘れてますよ!」
乱暴に言いつつも、期待してしまった自分に佐藤は気付いていた。
その後ろ姿を追う高木は、困っているような、少し楽しんでいるような。
ラブラブね、と微笑む影があったことには気付かずに。