novel

□ready
2ページ/3ページ



聞き込みを終えて本庁へ戻る佐藤の車は、渋滞を抜けたところ。



「意外とスムーズにいきましたね。」

「そうね。今のを除けばね」


ハンドルを握っている佐藤は笑う。




「あー、インクが…」

「出ないの?」

「擦れてきてて」


「はい」

「ありが…っ」

「落とした?ごめん、道悪くて…」


高木の座席の下に落ちたペンは、奥に入ってしまったらしい。


「もうすぐ着くから、後にしましょう」



本庁の駐車場に着きシートベルトを外すと、こっちのペンまでインクが無くなる、などと言いながら素早く隙間に手を伸ばした。

そんなにすぐには無くならないわよ、と佐藤は笑っていた。



「いたた…手が入らない…」

「私が取るわ」


高木に代わり、佐藤のスラッとしている手が難なく隙間に潜り込む。



「もう少し…」

「大丈夫ですか?」


「うん…。取れた、はい。」


「ありがとうございます」


受け取らずにペンを差し出している佐藤の手を見つめる。


「…何?」

「やっぱり細いですよね」

「ペンは大体細いんじゃない?」

「違いますよ、佐藤さんの指です」


天然な返事を笑いながら返す。


「柔らかいし、女性の手って感じですよね。」

「あら、ありがとう。手くらいは女らしくて良かったわ」



微笑みながら高木にペンを握らせると、その手を掴む。

「佐藤さん?」


「高木君の手は、ゴツゴツしてて大きいわね」

「佐藤さんの手が小さいんですよ」



「…手加減したでしょ」

「え…?」

「朝の腕相撲よ。この手が弱いわけがないじゃない。」

「手加減なんてしてませんよ」

「したわよ。しかも先輩達に勝ってる手なのに」

「本気でしたよ、途中までは…」


本気と言っても、もちろん男と戦う時と同様の力加減ではないが。


「ほらやっぱりー」

「違うんですよ」

「必死に力を出してる姿がその、可愛くて…」

「…上から目線じゃない」


少し怒った様な顔をするのは照れ隠し。

「すいません…でも、それが敗因ですから」

「何が敗因よ」

少し照れながら言う高木に顔を赤らめつつ、ぶっきらぼうに返した。



「私は高木君の顔、見てないのに…」

「え?」

「何でもないわよ」





「後で腕相撲しない?」

「良いですよ」

「わざと手加減してね」

「わざと…ですか?」


「余裕ぶってる高木君が見たいの」

「ぶってはないですって」

「とにかく見たいの」


苦笑いする高木に言い続ける佐藤の顔は駄々をこねる子供の様。



「今、勤務中ですよね」

「そうよ」

「そんな表情でそんな言い方されたら、今以上に勤務中だってことを忘れちゃいます」

「どういう…」


「触れてもいいですか?」

「ばっ…」


そそくさと車を飛び出し、車の外から真っ赤な顔をして一喝する。

「馬鹿言ってないで早く仕事!」


「佐藤さん、鍵忘れてますよ!」



乱暴に言いつつも、期待してしまった自分に佐藤は気付いていた。

その後ろ姿を追う高木は、困っているような、少し楽しんでいるような。



ラブラブね、と微笑む影があったことには気付かずに。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ