novel

□その瞳で
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夜は以前から予定していて、佐藤は高木の部屋に来ていた。明日は久々に二人して非番なのだ。


「午後から急激にハードになったわね…」

「ええ。でもまぁ、明日はゆっくり出来ますからね」





「佐藤さん」

「ん?」

「すいません、この前…」

「何もされてないわよ?」

「いや、そのー…、由美さんを…」

「あれは仕方ないじゃない。酔っ払いの介抱よ」

「でも、すいませんでした」

「馬鹿ね、真面目に考え過ぎよ」




そう言うと、リビングに向かおうとした彼女を抱き締めた。


佐藤は少し驚いた様子だったが、暫くして口を開いた。




「私、まだしてもらってないから…」


絶対に言わないつもりでいたのに、佐藤は高木から言葉を吸い取られていく気分だった。


そして彼は次の言葉を待っていた。


「付き合ってる私より先に由美がしてもらってたから、ちょっと悔しかったの」


「佐藤さんのこと、何回も抱っこしてますよ」

「何言ってるのよ。一度も…」


高木は戸惑う佐藤を軽々と抱き上げた。


「…えっ…?」

「佐藤さんがソファとか車で寝てた時に、僕が勝手に。」

「そうなの…?」


確かに気付くとベッドの上だった時がある。それを聞くと、起きて自分で行ったと高木は言っていた。



「その時の佐藤さん、必ず僕のシャツを掴むんですけど、それが可愛くて可愛くて」

「知らないわよっ‥」

「そりゃあ、寝てますもんね」


照れる佐藤に対しそう切り返す高木に、そういう意味ではないと心の中でつぶやいた。



「これ、さ…」

「はい」

「お姫様抱っこ…よね?」

「そうですよ。由美さんのは介抱でしたけど…これは正真正銘の」



嬉しさと恥ずかしさが一気に込み上げてきた佐藤は、高木の胸に顔を預けた。



本当に彼は優しい。

自分の気持ちは全部お見通しだったのだ。ちっぽけな嫉妬はどこかへ消える。


「ごめん、ありがと…」



彼からの初めての感覚に、体を委ねてそれを感じることしか出来ない。



「由美には内緒にして?今私が言ってたこと…」
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