novel
□春に包まれて
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綺麗に舞っていく桜の花びらに誘われるように、二人は近くの公園のベンチに腰を掛け、時を過ごした。
「春の匂いがする…」
「あ、それ分かります。太陽の暖かい匂いっていうか、花の匂いっていうか」
「そうそう。なんか、高木君が配属された時を思い出すわね」
「あの日も春の匂いがしてましたよね」
同じことを感じていたんだ、と幸せな、それでいて不思議な気持ちが二人の体を駆け巡る。
「同じ春でも全然違うわね。見知らぬ二人と、付き合ってる二人」
「本当ですね。あの時は、こうして佐藤さんと一緒にいられるようになるなんて、想像もつかなかったです」
「私もよ。春に出会った人と、こうやってまた次の春に一緒にいられるって、幸せなことよね。それが大切な人なら尚更…」
彼女の真っ直ぐな言葉に高木が頷くのと同時に、桜の花びらがベンチに舞い降りてきた。
「僕、春って好きです。佐藤さんに出会ったのも春だったし」
恥ずかしそうに微笑む佐藤に高木は続けた。
「それに、佐藤さんの季節ですから」
「私…?」
「はい、佐藤さんが生まれた季節。」
そう言うと顔を近付けてくる高木に、佐藤の心臓は跳ねる。
「…だからです」
「…私も春、好き。」
「良かった‥」
桜は心を素直にさせる
そんな気がする
二人は立ち上がり
歩き出した
咲き誇る桜の光の中へ
二人の未来に向かって
「春は出会いの季節って、本当にそうよね」
私達が出会ったのは春
私がこの世界と出会ったのも春
だから私も春が好き
春はそわそわする季節
人は新しい環境に、期待や不安を抱く。
そして、誰もが新しい出会いに触れる。
この二人も、また。
「佐藤さん」
「ん…?」
「春が過ぎても、好きです」
「夏が来ても、私も好きよ」
―“あなた”が―