novel
□その瞳で
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本庁を後にした高木が向かった先は居酒屋。佐藤、由美、千葉の三人と後から合流するはずだったが、すでに飲める立場ではなかった。
「あ、高木君!」
手招きする彼の恋人の横では、その親友がテーブルに突っ伏していた。
「泥酔ですね…」
「ごめんね、頼んじゃって」
「いえ、こんなに遅くなっちゃったんで飲めませんし」
「お、アンタ男前だね〜」
高木を見てフラフラと立ち上がったかと思えば、他の客に倒れこむ始末。
「すいません!」
「もう、飲み過ぎよ!」
結局高木と千葉が支え、半ば無理矢理に車に運ぶことになったのだが。
「うわっ…」
「もう歩かせられないっすね…」
「だな…」
完全に膝が折れてしまった由美を見て、家路に着くのが何時になるか分からないと思った高木だった。
「千葉、もういいぞ」
「はい?」
共に支えていた千葉に告げると、高木は由美を持ち上げた。俗に言うお姫様抱っこである。
「やりますねー、高木さん!」
タイミング良く来た高木からの連絡で、タクシーを呼ぶのを止めたわけだが、あのまま電話しておくべきだったと佐藤の中では小さな後悔が生まれていた。
「高木君、こっちのドアから」
それから二日。佐藤が一課へ向かって廊下を歩いてると、由美が前から手を振りながらやって来た。
「いやー、一昨日はごめん」
「由美!あんたねぇ…」
「本当に反省してるのよ」
「昨日が非番で良かったじゃない…」
苦笑いで完全に嫌味であろう言葉を口にすると、手を合わせて謝ってきた。
「ごめん、高木君のことも」
「え?」
「千葉君に聞いたのよ。その…担いでもらったようで…」
「本当よ。高木君、仕事上がりだったのに…」
「いや、それもそうなんだけど。美和子の彼なのに悪いことしちゃったなと…」
「あのね由美、酔った親友に嫉妬なんかしないわよ」
「そ、そう?ならいいんだけど。じゃ、そろそろ戻らないと。また後でね!」
けろっとして去っていく由美を見て、彼女らしいと佐藤はため息をついた。
「佐藤さん」
「え、あ…高木君。もう上がり?」
「いえ、これから張り込みですけど…」
「あ、そうだったわね。気を付けてね」
昨日は普通に接していたのに、例の抱っこをしてもらっていた本人を見た途端、複雑な気持ちが復活した佐藤だった。