novel

□真実の行方
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「高木君。」

「何ですか?」

「……」

「佐藤さん?」

「うん、あのさ…」

「…」


「…今日…沢山キスして欲しいの」

「え…」

「ずっとしてたいの…」

「……」

「ね、お願い…」

「喜んで。」



「高木君」

「はい?」



彼女に近付くと、恥ずかしがっていた彼女が少し勝ち誇った笑みをして楽しそうに言ってきた。


「今日は何の日だ?」

「エイプリルフール…」

「え?なんだ、気付いてたの」

「…じゃないですよ」



ほら、と自分の携帯で時間を見せると彼女の顔は瞬く間に赤くなっていった。


「ちょっと!あの時計遅れてるじゃない!」

「そうみたいですね…」

「そうみたいですね、じゃ済まないわよっ」

「そんなこと言われましても…」



「高木君…何で知ってるのよ。もう2日になった、って」

「それは携帯を見たからで…」

「でも見る前にもう知って…」



「さ、佐藤さん…?」



「…とにかく、さっきのは嘘よ?1日はエイプリルフールでしょ?だから…」


「嘘ですか…」

「そうよ。昨日の為に練りに練りまくったんだから」


「…でも、今日は今日ですから」

「だからそれは…」



今日はエイプリルフールじゃないですよ、とこの状況で優しく微笑まれたら、嘘なんかつけない。


「…さっきの、」

「はい」

「さっき言ったこと…」




「嘘じゃない。…かも」


こんなにも恥ずかしがっているというのに彼女に言わせて申し訳ないと思う気持ちもあるが、顔を真っ赤に染めて伝えてくれる姿に鼓動が早くなる。



「佐藤さん…」

「何よ…。高木君の意地悪…」

「すみません」


彼女の願望と言って良いだろうか。それが聞けてとてつもなく嬉しくて、たまらなく愛しくて。そっと抱き締めた。少し謝罪の意味も込めて。



「でも…」


「でも…?」

「意地悪は嘘になります」

「どうしてよ…ズルいじゃない」

「佐藤さんの願いにはしっかり応えますから」



「…っ…いいってば…」

「…沢山キスして欲しいんですよね?」


「も…本、当大丈夫…」

「沢山って、もっとですよ?」



唇を離す度に俺を遠ざけようとする彼女は、何故かとても色気がある。


「嫌ですか?」

「そうじゃなくて…」


「…」

「恥ずかしいのっ…」


俺の胸に顔を埋めて少しぶっきらぼうに言ってきた。
俺は彼女のそんな仕草が大好きで。




キスなら今まで何度もしてるじゃないですか、と笑ってみせるがそうではないようで。



「…こんなに一度に沢山するのって、なんか……ドキドキするって言うか…」

「佐藤さん…」


「…もっとドキドキして下さい」

「っ…!」



顔を上げた彼女の顎をそっと掴み、ゆっくりと深く口付ける。






親友が俺に部屋の時計を遅らせておくようにしたということに、多分彼女は気付いている。

そんな彼女自身も、その親友に“本当にしてほしい事”をと言われたのだから。







「…もう、ここが高木君の感覚だけね…」


唇を少し噛み、顔を赤らめたまま上目遣いでそう呟いた彼女に完全にスイッチが入ってしまった。


もっと自分の感覚を受け止めて欲しい。



「今日はまだ始まったばかりです」
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