novel

□how to
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辺りも静まり返った頃、佐藤のアパートの前には高木の車があった。



「おやすみ」

「…おやすみなさい」







昨夜のことが頭を駆け巡る。少し積極的過ぎやしなかったか、と。

病室で交わした彼との初めてのキス。あの時は彼の言葉があったけど。
だけど昨夜は前触れ無く、私から彼に口付けた。



誰かに言わせたら、恋人なんだから普通、とか言われそうだけど。
冷静になって思い返すと、やっぱり恥ずかしい。




「おはようございます」

「高木君、おはよう。」


少し弾んだ声で名前を呼ばれ、振り返れば小走りをしてくる彼がいた。


「今日は書類整理でしたよね?」

「ええ」

「手伝います」

「手伝うって…高木君も自分の書類が貯まってたじゃない」

「もう半分終わりました」

「嘘…」

「本当ですよ」



一課に入り自分のデスクの方を見やりほらね、と微笑む高木。
確かに、昨日見た時よりも遥かに資料の山が減っていた。


「へぇ…すごいじゃない。」

「なので、ね?」

「そうね。後輩の手を借りるとするか」



昨夜のことを気にしていない様子の彼に少し安心するも、ほんの少しだけ切なさを覚えた。

とにかく今は、仕事に専念することにして。




暫くして、自分の書類を片付け終えた高木は彼女の元にやってきた。


「…ん?どうかしましたか?」

「どうやったら早く片付けられるのかなと思って」

「いつもと変わりませんよ」

「だったらあんなに早く終わってないじゃない」


しれっと言いながらも此方を見続ける佐藤に酷い、と苦笑いをしつつ手を動かす。



「ちょっと早めに来たんです」

「それだけで、あんなに?」

「まあ…」

「…他にもありそうね」

「無いですよ」

「本当にー?」



「…今、その話をしても怒りませんか?」

「一体どの話よ。そんなにマズい話なら後で…」

「いえ、やっぱり今言います」

「何よそれ。怒られても知らないわよ」



覚悟は出来ています、と言うと少し照れながら口を開いた。


「昨夜、佐藤さんにプレゼントを貰ったので。」

「プレゼント?私、あげてないけど…」

「覚えてないんですか!?」


うーん、と必死に思い出している彼女を見て、舞い上がっていた自分が虚しくなり高木は少し肩を落とす。



「ごめん、待って…本当に分からない。」

「良いんです、僕が思い込んでいただけなので」

「ごめんってば。…ね、教えて?」


すぐに折れてしまう自分が情けないが、彼女に上目遣いで迫られ折れない男がいるだろうか。


こんなやり取りがあっても殺気を感じないのは、大抵が出払っているとか、仮眠を取っているからで。




「アパートに着いた時、佐藤さんが車の中で…」

「嫌だ…あれ…?」

「そうですよ」


告げた瞬間顔を真っ赤に染めた彼女に、高木まで顔を赤らめた。



「あれで…やる気が出たというか…」

「……」

「な、何か言って下さいよー…。一人空回りしてる気分です」

「…そう思ってくれてたって、考えもしなかったから…」

「…」

「ちょっと、嬉しいわね…」

「佐藤さん…」



高木はそっと彼女の手に触れた。繋ぐわけでもなく、本当に触れるだけ。


「ああいうの、すごく嬉しいんですよ」

「本当?」

「はい。」


「そっか…」

フワリと笑顔になった彼女を見て、高木の心に何とも言えない嬉しさが込み上げた。




「伝えたくて仕方なかったんですよ。」

「うん…」

「好きです、って」
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