novel

□ready
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一課に入ると、中央で人だかりが出来ている。何やら行われているらしい。

近付いた途端、人で作られた円の中から由美が出てきた。


「お、美和子!」

その声に反応した一課の男達は、一気に彼女の方へと視線を向けた。

「え、何…」

「こうなりゃもう少し観戦していくか。さ、入った入った!」

「ちょっと!」


由美に輪の中に押し込まれ、囲まれたデスクの上では高木が先輩刑事と拳を握りあっていた。



「美和ちゃん、見ていってくれ。俺の勇姿を…」

「今、高木君6連勝中よ」

高木はこちらを向くと微笑んできたが、確実に引きつっている。



「レディ…ファイト!」

合図と同時に周囲の喚声。





「くそーっ!」

デスクを思い切り叩き叫ぶのは高木ではなく。


「お前は先輩を敬うということを知らないのか!」

「いやぁ…ですが手加減したら承知しないと…」

「うるせーっ」



「さっきからこれの繰り返し」

「理不尽ね…」

そう言いつつも、二人で少し笑ってしまう。



「次、やります!」

「ちょっと、私はいいわよ」

挙がった手は、由美に掴まれた佐藤の手。


「よっしゃ。佐藤、一丁やってやれ」

「…分かりました」


勝負事だからか、何故かスイッチが入っている様子の佐藤に、高木は少したじろぐ。


「手加減無しで、よろしくね」

そう言うと同時に彼の手を握った。






自販機の前には疲れ切った男と、見物人だった女の二人の姿。


「暑苦しい中に天使を遣いに出したんだけど、余計ヒートアップしたわね」

「はは…」

「あんたも報われないわね…」



佐藤が祝福される一方、高木は負けたら負けたで、「美和ちゃんに好かれるためだな!汚いぞ」などと言われる始末。


「いいんです、そういう星の下に生まれたんですから」

トホホと壁に凭れ掛かり、由美に奢ってもらった缶コーヒーを力なく開けた。


「しかし、あのライバル達の前で良く出来たわね」

「何がですか?」

「あの流れで美和子に負けるなんて。あんたの彼女を持ち上げる心には…」

「いや、わざと負けたわけじゃ…」

「違ったの?」


なかなか良い勝負で、徐々に佐藤が押されていたが、突然高木の腕が押されてきたのだ。


「いえ、わざとです」

「意図的じゃないとなると…」



高木の訂正を無視して少し黙った後、突然彼女はニヤリと高木を見つめた。


「恋人と手を繋ぎ合ってドキドキしちゃった、とか?」

「な…な、何言ってる…」


「あ、いたいた。高木君、聞き込み行くわよ」


「図星か…」

「え?」

「何でも無いです。さ、行きましょう」



わざと美和子に聞こえる様に口にした由美に焦りつつも、平然を装いその場を後にした。



自分の彼女である親友とは対照的に、こういうことに鋭い由美には悩まされる。


図星といっても少し違う。
本当は…
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