novel

□紙一重
1ページ/2ページ



「熱っ…!」

彼の声と共に金属音が聞こえたのでキッチンへ行くと、水道水を指にかけていた。


「火傷?」

「フライパンに指が当たっちゃいまして…」

「大丈夫?」

「はい、大したことないんで」


「駄目よまだ」


水道を止めて手を拭きはじめた高木だったが、佐藤がその手を取り、水道水で再び冷やし始めた。



「もっとしっかり冷やさないと駄目なのよ」

「でも冷たくてキツいっすよ…」

「我慢しなさい」



「あの、佐藤さん」

「ん?」

「こういう時って他の場所をつねったりすると、痛みが和らぎますよね」

「まぁ、確かにそうね」

「協力してもらえませんか?」

「いいわよ」


佐藤は彼の頬に手を伸ばす。



「違います…」

「え?だってつね…ん…」



伸ばされた手を押さえ、佐藤に口付ける。

二人のもう片方の手は未だ水道水の中。



「…つねるのと関係ないじゃない」

「でも多分、神経がそっちにいくからあまり痛みを感じないってことですよね」

「そうなんじゃないの?」

佐藤は照れ隠しの言葉を返す。



「なら、今のでも通用しますよ」

「随分と都合が良いんじゃない?」

「僕には好都合でした」


キスなら痛くもないですし、と微笑む彼は少し子供の様。

そんな表情に、佐藤は心をくすぐられるのだ。




「実際佐藤さんに神経がいってたんで、痛みを感じてなかったです」

「…なら良いけど…」


顔を赤らめて呟く彼女の額にキスを落とす。




「もう冷やさなくて大丈夫よ…」

「いえ、まだちゃんと冷やさないと」

「これだけ冷やせば平気よ」

「僕の指の場合、まだ冷やし足りません」


「もう…」



見て、と視線を水道下にあるお互いの手に向けさせる。

いつの間にか高木の方が佐藤の手を握っていた。



「私の手は十分冷えてるんだけど?」

「あ、すいません」



「…つねってくれるんでしょ?」

「もちろんです。」



「高木君に私の神経を預けるわ」


二人の唇が近付いた時そう囁やいた佐藤の腰を、高木は少しばかり強引に引き寄せた。






「ん…冷たくない」

「続けますか?」

「続けない」

「佐藤さんは冷たいっすね」

「それ、笑える」




「ここでは終わり」

水道を止めてそっと抱き付く。



「…あっちに行こう?」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ