もぐもぐ

□たぶん、天使だった
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※裏描写あり。









「おはよう」
「十束さん?」


起きたら何故かBARにいて、しかも十束さんの膝枕。

「わ、すいませっ...!」
「寝てていいよ、お疲れ様」
「いや、でも」
「じゃあご飯食べようね」
「あ、はい」


この人、よくわかんねえよな。

嫌いじゃないけど。


「サンドイッチでいい?」
「あ、はい」
「八田はオレンジジュースね、俺はコーヒー」
「なんでオレンジなんすか」
「あ、やっぱり牛乳?」
「ちげえよ!喧嘩売ってるんすか」


この人わざとだろ...。


「あ」
「なに?」
「尊さんは...」
「キング?キングなら上にいるよ」
「そっすか、じゃ....え?」



腕を掴まれて立ち止まる



「朝ごはん、全部食ってからね」
「はあ...」


飯なんかいらねえって


「八田はさ」
「はい?」
「キングのこと好きだよね」
「まあ....たぶん」


好きってらいくだよな。


「ちぇっ」
「どーしたんすか」
「俺も八田好きなのにー」

は?

「でも、キングには敵わないなあ...」


寂しそうに微笑む顔がすごく綺麗だった。


「八田?」


どきん。


はっ?
え、何。いまの。


胸が苦しい。


「ちょ、八田?」
「は?あ、はい!なんすか」
「顔赤い。なんか此方も照れるんだけど」
「は、あ?」


顔、赤いって?


おおう...マジだ。


「ねえ、八田」
「なん、すか」


十束さんが近寄り俺の首に腕を回す。


「八田、好き」
「え...?」


顔は、見えない。

からかっているのか、

でも、体の熱さが息から伝わる。


「とつか、さ...んっ...!」
「八田、好き、好きだよ」
「ちょ、まっ...やっ...とつかさ......!」
「八田は?誰が好きなの?」


苦しくて息が出来ない。


俺は誰が好き?知るか。


「おれ、はっ...誰も......」
「嘘。キングかな?それとも伏見?草薙さん...もしかして鎌本?」
「ちがっ...!」
「本当に?」
「みん、な...ふっ...好き、だけどっ...恋とかじゃ...ぁ...!」
「みんな好きなんて残酷だね。俺は八田が好きだよ」

なんだか怖い。



整いすぎた顔に付いている色素の薄い瞳は
なにを考えているのかがまったくわからない。


普段の性格があれだから余計に怖い。


「とつかさっ...だめ、っす...ん、ふっ....」
「一方的でごめん。でも、すごく幸せ」
「へっ...ぁ...しあ、わ...せっ..?」
「そう。幸せ」


幸せ?
俺とのキスが?


不思議と胸が熱くなる。


十束さんとのキスに嫌悪感は無かった。
寧ろなんか、よくわかんねえけどドキドキする。


笑顔が綺麗すぎて、不安になる。


なんとなく、なんとなく俺は


「おれ、も」
「ん?なーに」
「十束さん好き......かもっす」
「....!?」


十束さんの顔が赤くなる。

そんな顔ですら綺麗で同じ人間なのかわからなかった。


「ちょ、十束さん?」
「八田、俺、幸せだよ」


優しく抱き締められる。

壊れ物を扱うように。


「....俺も、です」
「ぶはっ!八田かわいー」
「かわいくないっす!」
「かわいーよ。食べちゃいたい」
「食べっ...!?ば、馬鹿なんすか!?無理に決まって...」

不意に顔を見つめられ言葉が途切れる。

....恥ずかしいんすけど。


「八田は俺とするの嫌?」
「いや、そーいうわけじゃ」
「じゃあいいじゃん」
「わっ!ちょ、ここでかよ!?」
「えーだって、上はキングとファン第1号が」
「余計に駄目っすよ!」


神経狂ってんじゃねえのこの人.......。


「だいじょーぶ。ほら、足開いて」
「は?俺が下っすか!?」
「あたりまえだろ。あ、入れたかった?」
「違いますよ!てかもう草薙さん達来ますよ!」
「見せ付けちゃえ」
「駄目っすよ!」
「じゃあ夜してくれる?」


なんでこんな頑ななんだ。


「まあ、はい....」




そんなこんなで夜になってしまった。


「わーい!お家デート!」
「ちょ、近所迷惑っす」
「だって嬉しいじゃん?」
「わ、あ」


ベッドに押し倒された。


「はやっ....んん....!!」
「はっ八田、好き」
「待ってくださっ」
「やだ」


服をぽいぽい投げ捨てられ、何故かタンクトップ一枚の格好に。


「これ、かわいーね」
「なっ...!」


恥ずかしい


「見んな、馬鹿」
「八田大好き、愛してる」
「.......それ、ずるいっす」


何度も口付けを交わし、求め合う。


あまい、かおり。


十束さんの、かおり。


終には体を重ねてしまった。





「なに、考えてるの」
「十束さっ...あっ...の、ことっ...!」
「ふふ、嬉しいな」
「あっ...!」


苦しい、切ない。

この人は消えてしまうんじゃないかって言うくらい幻想的だった。


朝になったら居なくなるんじゃないかとか、


.....彼奴みたいに。


「行くな、よ」
「え?」
「おれ、を...んっ...置いていくな、よ...!」
「.........へーき、だよ」
「なっん...!」
「俺がずっと傍にいてあげる」
「....ほんと?」
「うん。だから八田も最後まで俺の傍にいてね」
「はいっ...!」


幸せだった。

十束さんは見た目より暖かくて、幸せだった。


そのあとは深い眠りについた。




「八田」
「好き、好きだよ」
「誰よりも好き」
「愛してる」
「だけど八田は」
「伏見が好きなんだね」
「でも、だいじょーぶ」
「俺は傍にいるよ」
「死ぬまで、ずっと」
「だからさ」
「心の底から俺を愛して」
「好きになって」
「いま以上に」
「俺に依存してね」
「おやすみ」
「美咲」









気が付けば朝になっていた。


隣には....いない。




「十束さっ....」


危うく泣きそうになった。
その瞬間に扉が開く。


「おはよー」
「あ、え?」
「ん?あ、台所借りちゃった!はい、ココア」
「.....ありがとうございます」


いなくなったと思った。


「目、赤い」
「うぐっ」
「居なくなったと思った?」
「はい」
「馬鹿」
「....はい」


また優しく抱き締められる。



好きだ。


十束さん。










その日の夜。
十束さんが亡くなった。



ころしたのはだれ?


むしきのおう


無色の王?



なんでそんなこと。





死ぬまで傍にいるって。

確かにそうだけどさ。


『へーき、へーき』


あんまりにも早すぎるんじゃないすか。

眠ってんじゃねえよ。


『なんとかなる』


起きろよ。


起きろよ。



逝くなよ。



俺を置いて


『...ごめん』


泣いた。

涙が溢れて溢れて

苦しくて、ただ苦しくて。


好きなんだ。
この人が。


連れていくなよ。


俺の恋人なんだよ...!




離れない、離したくない。



「八田ちゃん!?」
「やだ!離してください!」
「八田さん!」
「やだっやだ!十束さん、行くな!逝かないでくれっ!」
「八田ちゃん......鎌本」
「うっす」
「っ!?さわんじゃねぇ鎌本!離せ!」
「落ち着いてください!」
「十束さん!俺、俺の...!」
「八田ちゃん」
「なんすか」
「ええ加減頭冷やし?」
「.........と、つかさ」



朝起きたらBARに居た。

膝枕の感覚。


まさか、そんな


「っと.....草薙さん」
「ああ、おはようさん」




もういないなんて。



BARの中には十束さんの私物がごちゃごちゃ置いてあり、
昨日まで使っていたシーツもある。



不器用な愛だった。


けれど不完全ながら確かに愛していた。


偽りのない真っ直ぐな想いを教えてくれた。


そんなあんたが大好き。


でも天に還った。


やっぱり人じゃねえよ、十束さん。










許さねえ、無色の王。



てめえだけは。



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こんな話を書きたいと思って書いたら


書いてる途中に泣きそうになりました。



多々良.....



あんな約束してたら発狂しますよね





20121118

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