長編

□儚−6−
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冥界に戻り、冥界の女王としての地位と、正式にペルセフォネの名を紗月は受けた。

冥界での地位を得たことで、冥界で紗月にも神としての力を思う存分揮えることになり、亡者も手出しできなくなった。ニンフも、双子神も、冥府の執務官たちも優しくて、紗月が冥界での生活に慣れるのも早かった。

名前だけの女王にならないように、執務にも加わり、死者の償いの手助けをしたりと紗月は紗月にできるだけのことはした。

ただ、そうなってからもハーデスは紗月に触れることはなかった。唯一お茶会だけは一緒に過ごす時間だった。







紗月が冥府に訪れるときに必ず行くところがある。第二獄のケルベロスのもとだ。

三つの頭を持つ巨大な犬だが、紗月になついてくれていて、三つの頭それぞれが意思を持ち甘え、時に慰めてくれる。

皆が優しくしてくれるからこそ、気を使わせるようで悪いと感じる紗月にとって心地よい時間を持てる。

いつものようにケルベロスと戯れていた紗月はふと考えた。

ちらりとケルベロスの顔を見上げ、地面を見下ろした。


(少しなら、きっと大丈夫。)

そっと膝を折り地に両手をついて瞳を閉じた。体内の力を巡らせ手から地に放つ。淡い光と仄かに香る香りに瞼を挙げた。

そこに広がったのは色とりどりの花畑。冥府の薄暗い世界に小さくエリュシオンのような花々を咲かせた。

成功したことにほっと息を吐いた紗月はケルベロスに振り向いて笑った。

「エリュシオンには一緒にいけないけど、ここで一緒にあそびましょ?寝転がっても痛くないわ。」

乙女(コレー)のように微笑んだ紗月にケルベロスは尻尾を振り、寝ころび紗月のそばに寄り添った。
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