長編
□楔−序−
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「紗月、加減はどうじゃ?」
久しぶりに会いに来てくれた祖父は、皺くちゃの顔を歪めて紗月を覗き込んだ。
「大丈夫だよ、おじいちゃん。」
心配されても体に別状はない紗月は立ち上がって祖父に席を奨めた。
「おや、ありがとうな。」
そういって座った祖父がじっと紗月を見ていたから、「何?」と首を傾げた。心配そうというわけでなく、何か驚いたかのように目を見開いていた祖父は、「いや、」と歯切れ悪く口を開いた。
「以前、友人のところに会った絵に、紗月によく似た女の人が描かれてあってな。丁度歳の頃も同じだからの。」
「どんな、絵なの?」
描かれている女性が自分に似た女性とあって気になった紗月の質問に祖父は笑って答えようとしなかった。ただ、「その友人なんだが、」と話題を変えた。
「紗月もあったことがあっただろう。儂の友人で城戸光政、グラード財団の総裁だった男なんだが。」
「えぇ、覚えてますよ。確か…お嬢さんがいましたよね。沙織ちゃんでしたか。」
頭によぎったのは養女として紹介された紫の髪の少女の姿。少し気が強く、我が儘な面があったが幼さと、光政翁の態度のせいだろうと思った。
「そうだ。その光政が三年ほど前に死んでな…。」
「…そう、だったんですか。」
旧友の死は祖父の心にどう響いたのだろうか。寂しげに瞳を伏せた祖父になんと声をかけるべきか悩んでいれば、「そこでなんだが…」と言って一気にその雰囲気を払拭させ紗月に再び顔を向けた。
「その沙織嬢が、光政の跡を継いでグラード財団の総帥になったそうなんだ。」
紗月は思わず「えっ?」と間抜けな声をあげた。
「沙織ちゃんってまだ十歳ぐらいじゃ…。」
それほど前にあったわけではないが、確かそれぐらいの年齢だったはずだ。そんな少女が総帥?
「いや、今十二歳だそうだ。」
「あまり変わってません。」
思わず零れた言葉は仕方がないと思う。