長編

□儚−4−
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「ハーデス叔父様!えっと、お茶をお持ち致しました!休憩なさりませんか?」
執務をしていたハーデスは聞こえるはずのない高く心地好い声に顔をあげ、顔にこそ出さないが驚愕した。
「…どうしてここに?」

ヒュプノス達はどうしたんだ、という気持ちから自然と声が低くなり、その声に紗月はビクリと体を揺らした。

それを見たハーデスは内心舌打ちした。

「す、すみません、ヒュプノスに何か私に出来ることはないかと聞いたら、叔父様にお茶を差し上げてくれとおっしゃられて…ごめんなさい、ご迷惑でしたよね、部屋に帰ります」

口早にそう言い、手にしたティーセットをそのままに踵を帰した紗月の腕をハーデスは引き止めた。
「叔父様?」

不思議そうに見上げて来る紗月をハーデスは衝動的にこのまま抱きしめたいと思ったが、そんな葛藤なんてちらりとも見せずに、紗月の手にあるティーセットをそっと取り、紅茶を口へ運んだ。

「…美味しい、ありがとう」

そうして紗月の頭を壊れ物に触るかのように優しく撫でたハーデスに紗月は初めてハーデスに向け微笑んだ

「よかったです!」

その笑みにハーデスは眩しいものを見るように瞳を眇た。







「ハーデス様、そこでペルセフォネ様の入れたお茶だから〜と言ったり、もう少し労う言葉を!!」
「なあ、ヒュプノス」
「なんだ、タナトス」

邪魔するなと言わんばかりのヒュプノスの視線に怒鳴りたい衝動を押さえ、割と離れた所にいる主達に気付かれないよう小さな声で「何を?」と半分わかりきった質問をした。

「決まっているだろう?ハーデス様の恋を応援しているのだ。あの様子では何百年経ってもただの親戚止まりだ!」

何を当たり前のことを?というかのように告げられた言葉は、余りにもなものでタナトスは頭を抱えた。

「それは、不敬では…」
「そんなこと言ってるから未だに独り身なんだ」

そうして双子神のいた場所では戦場に早変わり。


その騒ぎに気付いた紗月はハーデスに「何の騒ぎでしょう?」と尋ねたがハーデスは「さぁ、知らぬが…」と言いつつテレパシーで双子神に命じた。

『タナトス、ヒュプノス。何をしておる?』
『『ハ、ハーデス様!!』』
『ペルセフォネが恐がる、争うなら余所でやれ』
『『は、はい』』


「あ、そうです。ねぇ、叔父様。これからは私がお茶をお入れますね。ですから休憩される時おっしゃってくださいね」

にこやかな笑みで言われた言葉に冥界は危険だからと断れる者はいるのだろうか?

ハーデスはただ頷くだけだった。
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