長編
□儚−3−
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紗月が目を覚ました時に違和感を感じた。いつもとは違う寝台で紗月は寝ていた。
「ここは…そうだ、私はあの人に…」
辺りを見渡すといつもの暖かな光溢れる世界ではなかった。ほの暗い世界を見渡し、寝台から起き上がり、ふらふらと部屋から出て行った。
幸いなことに屋敷を出るまで誰にも会わずにいられた。
外に出た紗月の目の前には今まで、そう人であった時もコレーになってからも一度も目にしたことがない光景だった。
生気を感じさせない亡者たちがふらふらと歩いており、遠くに見えるのは針山だろうか?それとも…絶えず亡者の呻き声が聞こえ、紗月は思わず足を竦ませた。
「ここってもしかして…冥府?え、あの時、私は死んだの?」
どうして自分がこんなところに居るのかわからなくなった紗月が思わず声をあげると、さっきまでただ紗月の前を歩いていた亡者達が一斉にバッと紗月を振り向いた。
「ひぃっ」
思わず恐怖から声が出たのを合図とするかのように次々と亡者共が紗月に手を向けた。
まるで紗月に振れれば天上の世界へ行けるとでも言うように。
紗月自身は気付いていなかったが、紗月は生者であり、ついさっきまで天界に居た春の女神のため、魂の輝きが暖かな光そのものだった。
あと少しで亡者に掴まれる、という時ふわりと紗月は何かに包まれた。
頭の上で聞こえたのはここへ連れて来た青年の声。
「この者に触れるな、」
かすかに怒気を孕んだ声と膨らんだ力の後、紗月は初めに居た部屋の中に戻っていた。
改めて青年を見上げた紗月は確信を持ってその名を呼んだ。
「ハーデス叔父様、ですよね?」
静かに青年、ハーデスは首肯した。