長編
□儚−7−
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次に目覚めた紗月の視界に広がったのは白い天井と泣きそうな顔をした友達、真理の姿。
「ま、り?」
掠れた声に真理はボロボロと涙を流し、「せんせぇ、紗月が、紗月が目を覚ましましたぁ!」と叫びながら抱き着いてきた。
何が起こっているのかわからないまま真理の背を撫でる紗月のもとに医者がやってきて話してくれた。
私は飲酒運転の車に跳ねられたけれども、奇跡的に外傷はなく、意識が戻らないまま二日たっていたけれども目を覚ましたということ。
検査をして異常がなければ退院はすぐできるということ。
すべてを聞いた私を襲ったのは空虚感。ボーっとしていた私に真理が心配げに「どこか痛む?」と聞いてきたので安心させるように笑っていった。
「ううん。平気よ。ただ、眠っている間長い夢を見ていた気がするんだけど…、忘れてしまっただけ。辛くて悲しくて、幸せな夢だった気がするんだけど…」
「夢は忘れるものだよ!もう、心配したんだからね!」
ポカポカと怒る真理を宥めて窓の外を見ようとした紗月の視界に入ったのは花瓶に活けられた一輪の花。
「ねぇ、真理。この花どうしたの?」
「あぁそれ?綺麗に咲いていたから摘んできたの。…紗月?どうして泣いてるの?」
真理の声でやっと自分が泣いているのに気が付いた。
「あれ?なんでだろ?止まんないや…」
アタフタとする真理を視界の端で捕えつつ、紗月の視線の先にあるのは凛と立つ水仙。涙はしばらく止まらずに、胸に空虚感が沸き立った。
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