かはたれの背中

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それから一週間後の日曜日、三井は遠征していた福岡から帰宅した。腹減った、今日何?彼はいつも通り変わらなくて、夕食に準備してある唐揚げに手を付けた。摘み食いだ。手ぇ洗えよ、そう言うと三井は、はいはい、と面倒そうにキッチンで手を洗った。これもいつも通りだった。その間に水戸は、夕食をダイニングテーブルに並べる。三井は冷蔵庫からビールを取り出し、プルタブを開けている。
「水戸ー、ビール要る?」
「いや、俺はいいよ」
「飲まねえの?」
「うん」
「何で?作りながら飲み過ぎた?」
「そうじゃない」
三井は少しの間沈黙する。ふーん、小さくそう言ってからビールを持って歩き、椅子に座る。この椅子は、引くとフローリングと擦れて軽く音が鳴る。互いに座り、いただきます、と言って食べ始めた。
「今日飲まねえの?」
「うん。この後車運転するし」
「へえ、どっか行くの?」
「うん」
水戸は唐揚げに手を付け、それを齧った。窓の方を時々見て、三井が買って来たソファを眺める。広いなあ、そう思った。ローテーブルは確か、あの家から持って来たやつだっけ?そんなことを考えた。今座っているダイニングチェアも、夕食を並べているテーブルも、三井が購入したものだ。水戸の意見など最初から聞かず、自分で揃えると、お前は口出すんじゃねえぞ、と息を巻いた。水戸はそれに口を出すのも馬鹿馬鹿しくて意見も合わなくて、買い物にも付き合わなかった。今日も三井のラジオは絶好調で、水戸が相槌しか打たなくとも止まらない。声のトーンも口調も変わることなく、流れ続ける。同じように、変わらず。
水戸は目の前にある食事を平らげようとした。口を開けて閉じて咀嚼して飲み込んで、三井の話に相槌を打った。凡そ十分程度で食べ終え、ご馳走さまでした、と手を合わせる。皿をシンクに下げる為に椅子から立ち上がり、歩いてキッチンに向かった。ステンレスのシンクに皿を置き、水を出した。弾かれる音と流れる水を少しの間眺め、レバーを押す。止まる水を確認して、少しだけ濡れた手をタオルで拭いた。三井はまだ食事中で、水戸はそれを眺める。横顔もいつも通り変わらない。同じ食べ方、同じ口調、同じ仕草、同じ横顔。全部、同じ。
水戸は息を吸って、ゆっくり吐いた。
「三井さん」
「ん?何?」
「出て行く。飽きた」
なあ、もういいんじゃねえの?もう十分だろ。なあ?





4へ続く


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