お題
□ここに、あなたがいた証
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・・・もう一生会えないかもしれない。
そんな覚悟をしなきゃいけないような事態が発生した。
遠い遠い地方で発生した事件。
町は崩壊寸前、被害者もたくさん出ていて、正に一刻の猶予も無い危機的状況だった。
そんな状態の中、私達『図鑑所有者』がオーキド博士に呼び出された。
何でも、その戦いで図鑑所有者である私達の力が必要らしく、一刻の猶予も無いんだとか。
とり合えずどんな様子か見に行く為に、何ヶ月も前に先輩達は現場に向かっていた。
だがそれっきり先輩からの連絡は来ていない。
もちろん姿を見る事もなかった。
オーキド博士やマサキさんがどうにかして連絡が取れるよう裏で必死に頑張って下さってはいるけど、一向に連絡が取れる様子は無い。
そんな中、第二の援軍として選ばれたのがゴールドとシルバーだった。
どうしてこの2人だけなのか理由は分からない。
私も連れてってと言ってもあの2人は頑なに首を縦には振ろうとしなかった。
どうして私だけ置いてけぼりなの・・・
私も一緒に2人と戦いたいのに。
勿論理由は直ぐに気が付いたわ。
2人とも優しすぎるのよ。
本当にバカなんだから・・・
でも守られてばかりのお姫様は嫌なの。
私も一緒に・・・
結局2人とも私の言葉に、首を縦に振ることはしなかった。
そうこうしている間に出発の日がやって来てしまった。
「クリス、笑えよ」
「元気でな、クリス」
どうしてそんな顔で言うの?
そんな顔で言われたって、笑えるわけ無いじゃない。
俯いたまま、唇をキュッと噛み締める。
そんな私に背を向け、ゴールド達は前へと進みだす。
このままだと、本当に会えなくなるかもしれない。
私は手を伸ばして、ゴールドの背中に強くしがみ付く。
私の行動でピタリと歩くのを止めたゴールドに、私は自分の今の思いを精一杯ぶつける。
「行かないでよぉっゴールド、シルバー!!」
涙が目からたくさん溢れ出す。
どうして貴方達だけが危険な場所に行ってしまうの?
私も一緒に貴方達と・・・
「クリス」
ゴールドが珍しく優しい声で私の名前を呼ぶ。
そんな優しい声で言わないでよ。
それじゃぁ、まるで・・・
「愛してたぜ、クリスタル」
「っ!」
そう言うとゴールドは、私の口を自分のそれで塞いだ。
それはほんの一瞬の出来事で、彼は愛用の帽子を私の頭に深く被せる。
「じゃーな、クリス。俺等の事なんてとっとと忘れちまえよ」
「ゴールドっ」
私が顔を上げた時には、もう既に彼等の姿は私の声が届かないところだった。
「・・・私も愛してるわ、ゴールド」
だから、忘れてなんてあげるものですか。
絶対に貴方達が戻って来るまで覚えておくわ。
だから、どうか2人とも無事で帰って来て・・・
彼は愛用の帽子と、唇に残る微かな温もりを残して、私の元から去って行った。
それから暫くして、オーキド博士から2人が帰らぬ人となったという知らせが届きました。