お題
□ロマンチックには程遠い
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僕の家に遊びに来ていたレッドさんが唐突に僕に向かって言った。
「なぁ、ちょっと散歩に出ないか?」
「え!?でも、ピチュたち寝ちゃってますよ?」
そう言って僕は、気持ち良さそうに寝ているピチュとピカをチラリと見る。
レッドさんが僕を誘ってくれたのは、とても嬉しいんだけどな・・・
これじゃぁしょうがないよね。
少し残念な気持ちを持ちつつ、僕は再びレッドさんを見ると、「あー」とか「うぅー」と声を出しながら何かを一生懸命考えているみたいだった。
心なしか頬に少しだけ赤みが差しているような気がする。
どうしたんだろう・・・なんて思っていると、行き成りレッドさんが僕の方を向く。
「イッイエローッ!」
「何ですか?レッドさん」
「ふ、2人だけじゃ駄目・・・かな?」
いかにも一杯一杯という感じのレッドさんの様子に、僕は全く気が付かず、ただ頭の中が真っ白になった。
「へ?あのっそれって・・・」
「俺はイエローと2人で散歩に行きたいんだけど・・・嫌?」
そんな事言われたら断れる訳無いじゃないですか。
「嫌なんかじゃ、無い、です」
むしろ凄く嬉しいです。
顔がにやけない様に必死に頑張ったけど、やっぱりどうしてもにやけてしまう。
チュチュとピカに小声で行って来ますと伝え、僕等は家を出た。
暫く森の中を雑談を交えながら歩いていると、急にレッドさんが立ち止まる。
「どうしたんですか?レッドさん」
気難しそうな顔で地面を見ていると思ったら、レッドさんは急に顔を上げた。
でもレッドさんの表情は何故か緊張しているようで、僕も自然に真剣な表情になる。
「なぁイエロー」
「何ですか?レッドさん」
何か悩みがあるのかもしれない、と考えて、真剣にレッドさんの話に耳を傾ける。
「あの、さ・・・キス、しても良いか」
レッドさんは頬を染めながら僕にこんな事を唐突に聞いてきた。
何事かと思えば、行き成りこんな・・・
しかも僕等付き合ってはいるけど、まだ恋人らしいことは何一つした事が無いのだ。
レッドさんは真剣な目で僕の返事を待っているけど、こんな時に僕はどう反せば良いのか分からない。
でも嫌だとか、そういう気持ちは一切無くかった。
ファーストキスには結構憧れや夢があったんだけどな。
まさかこんな所で、しかも突然するなんて夢にも思わなかった。
覚悟を決めて返事を言う。
「良い、ですよ」
今にも消え入りそうな声だけど何とか言えた。
聞こえているか不安になったけど、レッドさんにはちゃんと聞こえたらしく、驚いたように僕の方を見てくる。
僕が頷くとレッドさんが息を呑むのが分かった。
そしてレッドさんが僕の頬に手を沿えたのと同時に目を閉じる。
ドキドキし過ぎて心臓がこのまま破裂しちゃいそうな気さえしてきた。
レッドさんが僕の顔に近づいて来る気配がして、僕は先程よりもギュッと固く目を閉じる。
戸惑いがちな唇が、ぎこちなく僕の唇に一瞬だけ触れる。
でもそれはほんの一瞬の出来事で、温もりに酔う事も無いまま、直ぐに離れていった。
ゆっくりと目を開けると、照れたような困ったような顔をしたレッドさんが居た。
「・・・本当はもっと男らしくカッコよく言うつもりだったんだけどな・・・」
大きな溜息を吐き、苦笑いをするレッドさん。
「・・・俺の事嫌いになったか?」
不安そうに揺れる瞳に向かって僕は笑顔でハッキリと答える。
「嫌いになんてなる訳無いじゃないですか」
レッドさんに向かって、とびっきりの笑顔で言てあげる。
「僕はどんなレッドさんでも大好きですよ」
ロマンチックなんて程遠い。
でも・・・
僕はそんな貴方が大好きです。