お題
□「ばかだね、ほんとうに」
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学パロ
「きゃぁ!?」
今日何度目かのボンッという大きな音と小さな悲鳴が聞こえた。
その直ぐ後に、モクモクと黒い煙が部屋中に充満する。
その部屋の中に一人、エプロンをつけた少女が咳き込みながら立っていた。
涙目になりながらも、取り合えずオーブンを開けてみる。
すると中身は見事なまでに真っ黒に焦げてしまっていた。
「あっちゃー・・・また失敗かも」
クッキー・・・だった筈の黒い物体を見つめながら、私は溜息を吐く。
これで何度目の失敗だろう。
事の発端は数時間前・・・
同じクラスで私のライバル(一方的)であるシュウが、可愛らしい女の子にクッキーを貰っている所を偶然目撃してしまった。
でもいつもの事だと思って通り過ぎようとしたら、丁度、こちらを向いた女の子と目が合ってしまったのだ。
その女の子は私に気が付いた途端、物凄い形相で睨んできた。
冷や汗を流しつつ、関わったら面倒くさい事になると直感で感じ取り、その場を離れようとする。
が、その直感も空しく、先程とは打って変わった表情の女の子が私に話しかけてきた。
「あら、ハルカさん。どうしたんですか?こんな所で」
優しげな口調とは反して目が笑っていない。
「たまたま此処を通りかかっただけよ」
「へぇ〜・・・そうなんですか。それはそうと私、シュウ様に手作りのクッキーを差し上げたんです」
だからどうしたのよ、という言葉を押さえ込みながら、早くこの場を去ろうと決意する。
「そうなんだ。じゃぁ私は行くね」
そそくさとその場を離れようとしたその時、女の子がポツリと呟いた。
「ところでハルカさんはクッキーを作れるんですか?」
「え、えっと、そのっ私は・・・」
返答に困っていると、女の子はプッと噴出した。
「たかがクッキーも作れないんですか?本当にありまえせんね〜」
ケラケラとばかにした様に笑う女の子を見て、私の中で何かか弾けた。
シュウが呆れ顔で此方を見ていたが、完全に頭に血が上ってしまった私は全く気が付かない。
女の子は小ばかにした様な笑みを浮かべながら、更に追い討ちをかけるかのように一言放つ。
「ハルカさんって本当に女の子らしさの欠片もないんですね」
その言葉と態度にカチンと来てしまった私はつい口走ってしまった。
「ばっばかにしないで欲しいかも!私だって、クッキーぐらい作れるんだから」
と、啖呵を切ったのは紛れも無く私自身。
それがどうしてこんな事に・・・?
今日何度目の失敗かに大きな溜息を吐く。
見るも無残な光景の後片付けをしていると、突然聞きなれた声がした。
「ハルカ」
声のした方を見て見ると、教室の入り口にシュウの姿があった。
「げっシュウ!?」
顔が引きつる私を他所に、教室をぐるりと見渡す。
「・・・美しくないね」
小さく溜息を吐きながら、いつもの台詞を呆れたような声で言ってくる。
まぁ本当に呆れているんだろうけど。
そのままシュウは此方に向かって歩いて来た。
しかし言い返す言葉も無い私は、ただ厭味に耐えるしかない。
「あんな挑発に乗るなんて」
「うっ」
「第一、君は不器用な上に料理が出来ないじゃないか」
全く、と言った感じで溜息を吐くシュウに、私は何だか情けなくなり顔を俯かせる。
「・・・悪かったわね、女の子らしくなくて」
あーもう気分は最悪かも。
悲しくも無いのに涙が溢れてきて、思わず泣きそうになった。
涙が零れ落ちないようにと、必死で下唇を噛み締める。
どうしてこんな惨めな気持ちになっているのかしら。
「ばかだね、本当に」
「なっ!?」
聞き捨てなら無い台詞に思わず顔を上げる。
すると目の前に居たのは、困ったように・・・でもとても優しい顔で私を見ていた。
ポカーンと口を開けていると、シュウがハンカチを私の頬に当てる。
「無理に女の子らしい事をしなくても良い。君は君らしく居てくれればそれだけで良いんだ」
「シュウ・・・」
私は私らしく・・・か。
うん、確かにシュウの言う通りかも。
「ありがとうシュウ」
先程の表情から一変し晴れやかに笑うハルカに、シュウもまた満足そうに微笑むのだった。