短編
□あいにく傘は一本しか持ってない
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「え!?嘘でしょ、雨降ってる・・・」
今日は朝忙しくて、天気予報を見てきていなかった。
それに、朝はすごく晴れていたから、大丈夫だと思ったのに・・・
「はぁ〜、どうしよう」
生憎、いつもは鞄に入れている折り畳み傘でさえ、入っていなかった。
下駄箱の前で、途方に暮れるクリス。
他の生徒たちは、自前の折り畳み傘を差して帰っている。
私と同じように傘を忘れた人は、諦めて走って帰っている人もいた。
雨は当分止みそうにない。
仕方がないけど、私も走って帰ろうかしら・・・
そんなことを思っていると、後ろの方から聞きなれた声が聞こえた。
「真面目委員長が、こんなとこで何してんだ?」
「ゴッゴールド!!?まだ居たんだ」
「っんだよ、居ちゃワリィーのかよ」
「そういう意味じゃないわ。ただ、こんな遅くまで貴方が、残っているなんて珍しいから」
「まーな・・・、それよりお前は何してんだよ!皆帰っちまってるぞ」
ゴールドに痛い所を突かれ、ぅっと言葉が詰まった。
「そっそれは・・・、傘・・忘れちゃって。でも雨止みそうにないし、走って帰ろうかなぁーって思ってた所よ」
「珍しいな、お前が忘れモンなんて」
「自分でも思ってるわ」
ゴールドは、しばらく考え込んだ後、私に何かを突き出してきた。
取り合えず受け取ると、それは紛れもなく、私が忘れてしまった傘だった。
「特別に俺のを貸してやるから、それ使って帰れよ」
「二本傘あるの?」
「いや、それ一本だけ。でも走って帰りゃぁ、あんま濡れねーだろ!」
「そんな!悪いわっ、元々私が忘れたんだし!!私が走って・・・」
「いいって!お前ん家遠いだろうが!!大体走って帰ったら、風邪ひいちまうぞ」
「ゴールドも風邪ひいちゃうじゃない!!」
お互い譲り合って、一歩も引かない。
永遠と続く言い合いに、先に痺れを切らしたのは、ゴールドだった。