短編
□行き場の無い腕
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どうしてこうなっちまったんだろう。
そんなの決まっている。
原因は全て俺だ。
今回ばかりは俺が全て悪い・・・。
何があっても、俺をずっと好きでいてくれるだなんて、そんな馬鹿げた事あるはずないのに・・・
自意識過剰もいいとこだ。
それでも・・・
「クリス・・・好きだ。愛してる・・・」
俺があんな事しなければ、今でもお前は俺の隣で笑ってくれたのだろうか・・・
幸せだった頃がとても懐かしく感じる。
後悔ばかりが込み上げてきやがる。
もうあの頃は戻って来る訳ないのに。
俺はクリスと付き合っていた。
クリスは滅多に甘えないが、たまに見せる幸せそうに微笑む姿が、俺は酷く好きだった。
クリスさえ居てくれれば俺は幸せだった。
でも日を重ねるごとに、段々と不安が積もっていった。
―俺ばかりが一方的に好きなのではないか・・・
と
抱きしめたり、キスしたりすると直ぐに蹴られるし、俺が他の女と話していても、嫉妬している様子はない。
シルバーや先輩たちに相談しても「そんなわけない」と返された。
でもその時の俺は、どうしてもその言葉を信じる事が出来なかったんだ。
どうしても、アイツに愛されてるって確かな証拠が欲しかった。
俺の事を本当に好きなら、どんな事をしても好きでいてくれるはずだと、勝手に思い込んで・・・
だから俺はまず、嘘をついた。
『ほかの女と遊びに行った』と。
でも彼女は驚くでもなく、怒ることもせず、ただ「・・・そう」と一言呟いただけたっだ。
その反応に怒りを覚え、今度は実際に目の前で浮気してやろうと思った。
クリスを呼び出し、本人が見てる事を確認して他の女とキスして見せた。
これで確実に嫉妬してくれるだろうと思って。
でも目の前の彼女は、只々絶望に染まった瞳で俺を見つめていた。
そして絶望に染まった瞳には、今にも溢れそうな大粒の涙が溜まっていた。
その時初めて気がついた。
クリスはいつだって悲しみを抱えていたことに。
それを我慢して、俺に心配や迷惑を掛けないよう、ワザと興味がないように振舞っていたんだ。
心の中はきっと不安で一杯だったに違いない。
でも、それを押さえ込んで笑ってくれていたんだ。