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□この世界を生きる誰かへ
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「いらっしゃいませー」

お決まりの台詞が店内に
響き渡る。

「小野田君、モップ
かけといてくれるかい?」

「はい」

店長に指示され、俺は
カウンターの中から
モップを出して床を拭き
始めた。

ふと見慣れない物が
視界の端に映り、俺は
手を止めた。

最近、関東地方が大きな
地震に襲われたのは
知っていた。
現にその地震は大きさは
様々だが全国各地に影響を
もたらしている。

俺の住んでいる所も多少
揺れたが、震度3程度だ。
津波がくるような場所でも
ない。

俺のバイト先である
コンビニのドアには、
被災地に援助するためか、
募金活動を呼び掛ける
貼り紙があった。

ボーッと貼り紙を眺めて
いると、若いカップルが
入って来た。

俺はモップを片手に
カウンターに戻る。
仲の良さそうな男女は
タバコを1つずつ
カウンターに置いた。

「410円が1点と、440円が
1点で850円になります」

バーコードを手早く
スキャンして合計を
伝える。

男の方が1000円札を
渡してきた。

「1000円お預かり
いたします」

ドロアーが開き、画面に
表示された数字は150。

「150円のお返しに
なります」

「あ、見て!これこの前の
地震のやつだよねぇ?」

彼女の方がそう言って
男を見上げた。

「そうだな…」

男はそうつぶやいて、
財布に釣銭を入れようと
していた手をそのまま
募金箱に伸ばした。

「ありがとうございます」

お金が落ちる音を
聞きながら、俺は小さく
頭を下げた。
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