宝物

□プラトニックじゃ生きられない
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プラトニックじゃ生きられない



長期の休暇でもない限り、ヴァリアー邸の私室で暮らす幹部連中ではあったが、同じところに居を置いていてもすれ違う時は徹底してすれ違う。今、この時がそうだった。

なんともう二ヶ月近く、ベルフェゴールの顔を見ていない。声を聞いてない。キスをしていない。抱き締めて、もらっていない。

ヴァリアーの仕事は今やというか、元よりというか、暗殺だけというわけではなくて、上層部の警護から情報収集、ファミリィのシマの見回り表向きの会社の雑務など、多岐に渡っているわけだ。
中でも、組織において次席の地位であるスクアーロにかかる重圧は重かった。主な理由としてはまずボスであるザンザスが、スクアーロに対して我儘放題。顎でこき使っていたからだ。
少年時代、圧倒的な強さに憧れ、ついていくのだと誓った男の後頭部を、出来ることならば思いきりしばき倒してやりたいという念に、ほんの一瞬、スクアーロが囚われても仕方がないというものだ。
大体にして、ベルフェゴールは何をしているんだろう。
ちょっとでも、ほんの少しでも、すれ違うなり、会いに来る時間はねえのかよ。
もっとも苦手なデスクワークに就きながら、スクアーロは悶々として爪を噛んだ。

「あ゛――――…、ベルに抱かれてえ、ブッ込まれてえ、めちゃくちゃに掻き回されて、腹ん中いっぱいにされて、ドロドロになっちまいてえよぉ」

ゴドッと机に頭を打ち付けて動かなくなったスクアーロの口から、出てくる言葉ときたら欲求不満そのものだった。

「やめてよ。想像しちゃうじゃないか」

同じく隣の机の上に乗って(椅子では当然背が届かないからだ)書類整理をしていたマーモンが、心底嫌そうに、だが冷静に呟いた。

「う゛―…、マーモンー…、ベルの幻影出してくれよお、Sランク三倍でどうだあ?」
「…出してもいいけど、…君さ、何に使うつもり?」
「あ゛―? そりゃまず思いきり抱っこしてもらって頬っぺたぐりぐりして服脱がせてベルの匂い堪能してベルのあれいっぱい舐めてそれから」
「やっぱやめた。絶対いや」
「なんでだよお、出してくれよお」
「じゃあ言うけどさ、君、ベルの幻覚とあれこれしたところで満足出来るわけ?」 
「出来るわけ、…ねぇよなあ…」

スクアーロは、ごとんと再び机に頭を打ち付ける。
それにしたって、二ヶ月。
もう二ヶ月だ。
ずるずると椅子からずり下がりながら思うことといったら、なんともどうにも女々しいことに。

(――――俺、泣きそう)

ついには床まで崩れ落ちて、自慢の銀髪が埃にまみれるのも頓着せずに、すん、と鼻を啜り上げた。
なんて情けない姿だろう。
なんでこんなことになっているんだろう。

「ベルがいねえと枯れちまうよぉ…」

最早、応答さえも返さないマーモンを横目にしながら床の上でごろごろと丸まって、スクアーロはまたひとつ、つん、と痛むような鼻を啜った。



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