宝物

□脱抑制促進薬(アルコール)
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スクアーロの部屋まで到着すると、そっとベッドに横たえ、水の入ったグラスを用意する。

「スクアーロー?気分は?」

脱力しきった身体を揺すり問いかける。
眠たげな目蓋が持ち上がり、柔らかく霞んだ灰色がこちらを向き、にこり、と笑んだ。

「ベル、キスしようぜー」
「んー?お前、マジでキス魔になるわけ?今までそんなコトなかったじゃん」

別にいいんだけどさ、と前置いてから、唇に吸い付く。
可愛らしい音をして離れた唇に、もう一つオマケに追いかけるようなキスを与える。
すると、満足気に細められた瞳とぶつかって、思わず緩んだ苦笑が漏れてくる。

「悪くないかもね、キス魔ってのも」
「…別に、オレはキス魔じゃねぇぞぉ?」
「現に今してんじゃん」
「だから……」

ほんの少し照れを揺らして、その後ふやけるような悪戯な笑顔を浮かべたスクアーロ。
妙に濡れて色づいて見える唇が紡ぎだしたのは、意外な返答。

「つい、ベル見てたらしたくなっちまったんだぁ」

うっわ、なにそれ……予想外すぎて、王子の口も目も塞がんないんだけどー…。
刹名に停まった思考だけれど、次第に浸透してくる歓喜にクリアになる。
うまい言葉が思いつかなかったから、仕方ない。
お返しと、それから素直なご褒美に、勢いよく喰らうようにキスの大盤振る舞い。
何度も、いくつも、どうとでも。
だってオレ王子だもん。姫にはなんでも贅沢に与えてやるって決めてんの。

「……っは…ぁ…」

呼吸は切れぎれ、鼓動はハイビート。
アルコールの所為だけでなく染まる頬に、何度目か分からないキスを降らせて、ようやく二人の距離が開く。

「お前、ほんと可愛いよ」

心くらい、いくらでも持ってけ泥棒。
その代わり、お返しはお前も心と身体、って分かっているから。

「でも、お前今度から酒飲む度にキス魔扱いだぜ?」
「あー…そこまで考えてなかったぜぇ」

ま、だと思った。
だったら、考えるのはオレに任せておけば良い。伊達で天才の名を背負っているわけじゃない。
今回の場合は、何の策もいらなそうだけど。

「いいんじゃね、このまま放っておけば」
「でもよぉ……」
「だーかーらー…」

そっと思いついた名案を囁いてやる。
きょと、という顔をした後に、恥ずかしそうに微笑むその反応が、予想通りに期待通りで愛しい。

「そうだなぁ」
「じゃ、けってー」

にんまりと交わす笑顔。
さて、アイツらが気付くまで楽しませてもらわないとね。

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