宝物
□脱抑制促進薬(アルコール)
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ずべしっ!!
昔のお笑い芸人がコケたみたいな音で、膝上から叩き落す。
そこに容赦とか手加減と言う言葉は欠片も見当たらなかった。
しかし、そこはアルコバレーノ。重力無視な放物線でふわりと床の上に着地する。
「何するのさ、ベル」
「頭にゴキがいたから、ついね。切り裂かなかっただけ、感謝してよ」
ボクもスクアーロにしてもらいたいんだけど。
は?ふざけんなよ、クソガキ。
二人の副音声がはっきりと聞こえる耳を小さく振り、ルッスーリアは仲裁に入るべく手を挙げた。
が。それは必要なかった。
「マーモンもしてほしいのかぁ?」
「うん」
原因自らが小さな身体を拾い上げ、聞いている。
やめてちょうだい、スクアーロ!マーモンの余命を縮めないであげて!!
ルッスーリアの心の叫びは届かない。
「ちょっと!待てよスクアーロ!」
「何やってやがる、カスが」
ベルが間に割り込む前に、地を這うような低音がそれを制止した。
赤子を取り上げ佇んでいるのは、どこから出てきたのか、並んだ顔ぶれの紛れもないトップに君臨する人物。
たまにはいいことすんじゃん、ボス。
ベルが褒めているのか首を傾げたくなるような賞賛を心中で呟くと、ザンザスは赤子をルッスーリアに預け、乱暴にスクアーロの襟首を掴み引き寄せた。
そのまま、零を目指す唇の距離。
「まずは俺にだろうが」
昨日の敵は、今日も敵。
稲妻よりも速く、窓に打ちつける雨粒よりも強く、嵐の守護者はワイヤーとナイフを操った。
「っ!!?」
殺気を感知して、というよりも反射に近い勢いでその攻撃を避けたザンザスだが、彼もただでは起きない。
スクアーロをかばうように抱いたまま、3歩ほど後退した。
が、二撃目は何の躊躇いもなく頚動脈を狙って飛んでくるナイフ。
仕方なくスクアーロを一瞬手放す。
そして、その一瞬はベルが間に割り込み、可愛い可愛い鮫を奪い返すには充分すぎる時間。
かくして、ベルはスクアーロを抱き上げ、頚動脈を裂くことに失敗したナイフが、羽飾りを一本だけ削り取ったのを眺めて、勝ち誇った笑みを浮かべた。
「じゃ、オレ寝かせてくるから、おやすみー」
返答の間も許さずに、踵を返して広間を出る。
「ちっ…」
後方から聞こえた舌打ちと、椅子の倒れる音は完璧に無視をして。