BLEACHのお部屋

□戦装束
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負けたくない。

…どんな時だって。

それは男性にあるように、女性にだってあること。


     


      
          『戦装束』(前編)








「西洋風パーティ?」

五番隊の執務室に乱菊とお茶をしながら、乱菊から初めて聞いた。

「そ。っていっても十三隊の隊長格どうしだけの宴会みたいなものよ。」

隊長格同士だけというのも珍しいものだった。

「この時期にですか?…珍しいですね。」

反乱事件から2年。
藍染は倒され、いつもどうりの静けさをやっと取り戻しつつあった。

6月という中途半端な時期に宴会など初耳だった。

「私もそう思ったんだけど…。雛森にはちょうどいいじゃない?」

「…へ?」

「へ?って…。あんた誕生日でしょ?」

雑務整理に追われ、昨日やっと開放されたばかりだったせいかすっかり忘れていた。

「そ、そうでしたね…。」

「誕生日プレゼント。パーティの時楽しみにしてなさい。乱菊ねえさんがいいのあげるから。」

「あ、ありがとうございます…。」

乱菊は雛森の側まで座っていたソファから身を乗り出し、怪しい笑みを浮かべた。

…なんだか嫌な予感がする。

そういえば最近、日番谷に会っていない。
乱菊とあったのもかれこれ一週間ぶり。

元気でいるだろうか。
いや、自分には気にする資格もない。

あの事件以来、どこか穴が空いたように落ち着いていられないのだ。
仕事をしたり、誰かと話したりしていると落ち着くが。

安息の地はどこなのだろう?

穏やかな日々を取り戻してしるはずなのに、雛森だけ地に足が付いていない気がする。

「でも、西洋風って?何がちがうんですか?」

「現世でドレスって見たことある?」

「はい、一度だけ…。」

「女性死神はね、ドレスアップするんですって。」

楽しそうに語る乱菊。
実際、ドレスなんて着る機会はないだろう。


でも、なぜか心の浮遊感は消えなかった。



**************


控え室で乱菊と待ち合わせし、桃は控え室へと足を運んだ。

「こんにちは。」

「いらっしゃい。…入りなさい。」

桃を招き入れると乱菊は鏡の前に座らせた。

「あの…乱菊さん。…何をするつもりなんですか?」

おそるおそる乱菊にたずねる。
乱菊は悪戯っぽい笑みを浮かべ、桃の肩に手をおいた。

「いったでしょ?いいのもあげるって。…はい、これ。」

そういうと乱菊は四角い、綺麗な細工がされている箱を渡した。

「これって…化粧箱?」

「私からのプレゼント。今日は特別に化粧してあげる。」

「えええ!?……高そうなんですけど。」

金の装飾が施され、宝石もちりばめられている見事な化粧箱だ。
これだけで家が一件買えるだろう。

「Σ気にしちゃだめ!!…いろいろあったしこれくらいさせなさい。」

「で、でも…」

「これは私のわがままなの。…貰ってやって。」

「クス…はい。」

手際よく化粧していく。
化粧なんて何年ぶりだろう。

「ねえ、雛森。」

「はい?」

「私がどうして化粧を選んだのかわかる?」

「…?」

「化粧は女の戦装束だからよ。」

「戦装束…?」

誰にも負けたくない時に。
男が気を引き締めるように女にだってそういう時がある。

「どんな薄化粧でも泣けばくずれる。だから、絶対泣かなくなるのよ。」

涙を我慢することはよくないこと。
でもいつまでも泣いてはいられない。

前へ進まねばならないから。
そして、何者にも負けないように。

「私たちは死神だから傷つくことは覚悟の上で死神になったし、傷つくことには慣れてる。…でもけして強くはない。」

人はもろくてとても弱いから。

だが後悔など、してほしくない。
できることは背中を押してあげることだけ。





「あんた、隊長に会うのためらってるでしょ?」









…空気が痛いと思った。
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