テイルズの部屋

□鐘をならして
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君が君らしくあること




―それはまた孤独とも言う。






『鐘をならして』







君と離れて半年。
それぞれみんながんばっている。

無意識にあの人を探してしまうのは
しょうがないことなのだろう。

評議会に提出する報告書を取りまとめていた筆を止めると窓辺に目をむけた。
あたりはすでに夜闇に包まれており、空には月と星、月明かりで少しばかりの雲があるだけである。

書き始めた時には太陽が覗いていたのだが、いつの間にか暗くなってしまったようだ。

空に瞬くブレイブヴィスペリア。

この星を見て切なくなるのはけして仕事が辛いとかではない。

髪をとめていたバレッタを梳いた少女――エステルは目を細め空を見上げた。

仲間と旅をした日からまだそんなに経っていない。
あの旅で幾千の夜を歩いた。

憂鬱なのは戻ってきてから城の外へ出ていないのが原因かもしれないなと固まった背筋を伸ばした。


―今日はもう寝よう。


今日の疲れを癒すべくエステルはベットに身を預けた。

目を閉じると暗闇だけで何も見えなくなる。

闇は好きでない。

嫌なことを思い出すから。

でもしばらくすると一緒に旅をした漆黒の髪を持つ青年が浮かんでくる。

一瞬、怖さを忘れる。

でも笑って振り返りもせず行ってしまう。
必死に手を伸ばす。

何かに掴まれたようにエステルは動けない。
何者かの牙が身を食い込む感覚。


これは夢。


頭では分かっているのに。


痛いと叫びたいのに。


助けてくれる人などいるわけがないと知っているのに。


―私は強くない。


エ………テ………


私は弱い人間だ。
強く…なんかない。


エ………テ……ル……


だからこの聞こえる声も幻聴。
呼んでくれる人なんて今はいないのだから。

彼が背を向けて旅だったのは記憶に久しい。


―満天の星空が今は寂しい。



「エステル!」



……え?



重たい瞼をのろのろと開けると心配そうに覗き込む漆黒の青年がいた。

「ユー………リ?」

「悪い。うなされてたから起こした。…大丈夫か?」

頬に伝っていた涙を優しく拭う。

まだ覚醒しきれていないのかぼーっとする頭でゆっくりと上半身を起こす。

「…夢…じゃないですね??」

心配顔から呆れた顔にユーリは表情を変えた。

「おいおい、まだ寝ぼけてんのか?…って」

ポロポロとエステルの涙がまた流れ、ベットに染みを作る。
突然のことにユーリは慌てた。

「お前ほんとどうした?泣き虫なのはいつものことだが、一段とひどいぞ」

「ご、ごめんなさい…夢見が悪かったものですから…。」

おかいしいですねっと涙を拭う彼女が痛々しかった。

「夢?どんな?」

ユーリが行ってしまう夢。
好きだと自覚してからこんなにも辛いとは思わなかった。

だから、仕事に明け暮れた。

幸い、やることは山ほどある。
何も考えないでいられる。

言って楽になってしまいたい。
でも言ってしまったら我慢してきたものがあふれてしまいそうで。

エステルは押し黙った。

「…黙まりしててもわかんないぞ。」

ユーリはベットに腰掛けてエステルの手を握る。

手が暖かい。

「ユーリが……どこかに行ってしまって……何かに噛まれる夢…です。」

何度も繰り返す夢。

「…最近、寝るとかならず一番最初に見るので…寝れなくて……」

なんとかそこまでいうと再び涙があふれそうになる。

すると急に腕を引き寄せられ、ユーリの腕の中におさまった。

「ユ、ユーリ?///」

「…お前無理してるだろ。」

ため息をつき、優しくエステルの頭を撫でる。
目を見開き、少し顔をあげた。

なんで知ってるのか。

そんな顔をエステルはしている。

「…泣き顔みせられちゃ、誰だって思うよ」

抱きしめていたエステルを開放してやると、まっすぐユーリを見つめてくる。

「少しは周りを頼れ。…つっても俺も帝都離れてたからな…ごめんな、一人にして。」

首を横に振ると今度はエステルの方から抱きついた。

「私も…ごめんなさい。」

そういって堰を切ったように泣くエステルをユーリは背中を撫でてやり、抱きしめ返した。



**********




「そういえば、どうしてユーリがここにきたんです?」

エステルは落ち着きを取り戻し、部屋でくつろぐユーリに問いかけた。

「どっかの親切な騎士殿が『最近、エステリーゼ様が引き篭もって困っている助けてくれ』って言われたんだよ。」

世界各地を飛び回っているユーリの居場所をどうやって突き止めたのか、フレンが宿にやってきたのが5日前のこと。

本人は任務できたといっていたのだが、おそらくヨーデル殿下あたりが気をきかせたのだろう。

それとなく、エステルがまた根詰めすぎて困っているのを察知したユーリはカロルに休みをもらい、里帰りもかね戻ってきたのである。

「そうだったんですか…すいません、ご迷惑おかけして。」

「いーえ。ま、無理して倒れられるより全然マシだ。」

そういうとポンっとエステルの頭を撫でた。

「たまには我が儘の一つや二つ言ったっていいんだからな。…あんま一人で抱え込むの悪い癖だ。」

「…はい」

「…今度、ハルルにでも気晴らしに連れってやるよ」

シュンとしていたエステルがぱあっと笑顔になる。

「はい!楽しみにしてます。」


光と影があるように不安もある。


それはきっと死の果てまでついていくのだろう。


君が笑っていられるのように。


せめて僕が笑って生きていたのなら









―鐘を鳴らして君に知らせよう









〜FIN〜

(君が君らしくあることは孤独だけどけして一人じゃない)
 

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