long story 2

□『精霊のティアラ』
 8.村の精霊
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 実木と実土が涙の家に来てから一夜が明けた。ジェイはいつもより少し遅く目を覚ました。一緒に休んだ実木と実土はまだよく眠っていた。まだまだあどけなさの残る顔。ジェイはそれを見ながら少しうれしくなった。しばらく眺めていたが、そろそろ店のほうの仕事も始めなければならない時間。ジェイは二人に声をかける。
「実木、実土。朝だよ」
二人は小さなうめき声を上げると、まだ眠たそうな目でジェイを見上げた。
「おはよう。そろそろお店の準備をしなければいけない」
「そう…」
実木はそう言うと目をこすった。実土は起き上がったもののぼーっとしていた。しばらく動くのは無理そうである。
「まだ眠たそうだね。後からゆっくり下に来るといい。私は先に行くよ」
「うん…わかった」
実木は小さくそう言った。ジェイは急いで支度を済ませると下に下りる。もう既に明も、雷も朝食を終え、仕事の準備に取りかかっていた。特に雷は今まさに家を出ようとしていた。ジェイは慌てて雷を呼び止める。
「雷君。ちょっと聞いてもいいかな?」
「へ?…はい」
「君はこのまま明と同じ部屋ではマズいかな?」
雷はびっくりした表情を浮かべる。
「まあ、できれば違うほうがいいですね」
「そうか。呼び止めて悪かったね」
ジェイは申し訳なさそうに微笑んだ。
「別に大丈夫ですよ。まだ時間的には余裕ありますし。でも…もしかして実木と実土のことですか?」
「うん。二人きりにするのは忍びないからね。でもそうなると、この家も岩路さんの家も少し手を加えないといけないかな」
ジェイは苦笑いを浮かべる。
「あ、あの、別に絶対ダメってわけじゃないですからね」
「ありがとう、雷君。でもいずれはしなければならないことだから。心配しなくても大丈夫」
ジェイはにっこり笑った。雷もホッとした表情を浮かべる。
「長く呼び止めてしまって悪かったね。岩路さんによろしく」
「はい。行ってきます」
雷はそう言うと家を出ていった。ジェイがリビングに行くと実木と実土が下りてきていた。ゆっくりとだが朝食を食べていた。
「思ったより早かったね。二人とも」
しかし二人は黙々と食べ続けた。頭が働いているというわけではなさそうである。さすがにジェイも朝食をとり、店の準備を始めなければ開店に間に合わない時間だったので、涙に言って朝食をもらう。
「そういえばジェイ、今日は結構遅いよね」
「起きた時間そのものがまず遅かったからね」
ジェイはそう言いながら早速朝食を取り始める。そして二人が食べ終える頃、ジェイも食べ終えた。
「実木、実土」
朝食をとって少しは頭が動くようになったのか、二人はすぐにジェイのほうを向いた。
「これからどうする?ここに残るか。それとも帰るか」
「…残ってもいいなら残りたい。元の村に帰っても私達の居場所はないから」
「そうか。わかった。後で少し実木に力を貸してもらいたいのだけどいいかな?」
実木は少し不思議に思ったがただ頷いた。
「うん。いいけど…」
「じゃあ、午前中のうちに宿から家に全部の荷物を持っておいで。いいね?」
「うん。わかった」
二人は頷いた。ジェイはそれを確認すると、食器を片づけ、店のほうに急いだ。
 ジェイに言われたとおり、実木と実土は午前中のうちに宿泊を取り消し、荷物を涙の家に持ってきた。昼休みになると、ジェイと実木、実土は一緒に昼食をとった。その途中、ジェイが二人に言った。
「言ったとおり荷物は持ってきてくれたみたいだね。食べた後、実木、ちょっと手伝ってもらえるかな」
「うん。でも何するの?」
実木はジェイに聞いた。ジェイは食べながら答える。
「明と雷の部屋を分離してほしいんだ。今のままだと使いにくいだろうから。そして、また後で岩路さんの家の部屋も二つに分けてほしいと思っている」
「そっか。わかった」
実木はにっこり笑って頷いた。そして三人が昼食をとり終わると、早速部屋を分離する。部屋のちょうど真ん中に実木が新たな壁を作り出した。
「これでいい?お父さん」
「ああ。思っていたよりきちんと力を使えるものだね」
ジェイは実木の作業に感嘆の声を上げる。
「昨日ちゃんと覚えたからね。そうだ。私達の部屋も仕切り作っていい?」
「いいけど…」
「完全な壁じゃないわよ」
実木はくすくす笑いながら自分の部屋に向かう。そして可動式の仕切りを作った。
「これで大丈夫」
それを見てジェイがぽつりと言った。
「こっちのほうがよかったかな…」
「ん?お父さん、何か言った?」
「いや」
ジェイは小さく首を振った。
「さて、岩路さんの家のほうは急がないから今はいいよ。それより、後で涙と一緒に買い物に行って、必要なものを揃えておいで」
「わかった」
二人は元気に答えた。その様子にジェイはうれしくなり、顔が緩みそうになる。
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