long story 2

□『精霊のティアラ』
 7.ジェイの宝物
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 重蔵が帰ってから数日が過ぎた。涙も完全に回復し、ほとんど変わらない日々が戻ってきていた。しかしなぜか微妙に涙と雷の関係はギクシャクしていた。それでも気づいているのは本人達だけで、はっきりとは見てとれなかった。この日、涙は珍しく店に一人で出ていた。作製がたまってしまい、ジェイと明は部屋にこもっていたのである。客足は多くなく、涙はカウンターに立ったまま少しぼーっとしていた。すると人が来たことを告げるベルが鳴り響く。涙は視線を入り口へと向けた。中に入ってきたのはあまり背の高くない女の子二人だった。よく似ており、涙は双子かなと思った。しかし二人はこの村では見たことがなかった。一人は店の中を見回し、もう一人は片方の後ろに隠れるようにしていた。しばらくすると店を見回していた女の子と目が合う。涙はにっこり笑った。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「あ、いえ。私達、今ここに着いたばかりで」
「そうでしたか。ここからもう少し歩くと村の中心部に着きます。疲れていると思いますから、まずは宿をとって休まれたほうがいいと思いますよ」
答えた女の子はにっこりと笑う。
「ありがとうございます。久々の村だから少し焦ってしまって。…もう少しで休めるって。がんばろう。実土」
「…うん」
実土と呼ばれた女の子は弱々しく答えた。ずいぶん疲れてしまっているようだった。それを見た涙は二人に言った。
「あの、よかったら中で休んでいかれますか?」
「いえ。そこまでは悪いです。それにもうすぐですから」
女の子はにっこり笑った。そしてもう一人の女の子を支えるようにして歩き出した。涙は心配だったが、店の外には出るわけにはいかず、ただ二人のことを見送った。
 その日の夕方雷が帰って来ると、涙は雷と一緒に買い物に出かけた。二人きりになると少し気まずい雰囲気になったが、互いに気にせず歩く。買い物の途中、宿屋が見えた。涙は思わず立ち止まり、宿屋を見る。雷は驚いた顔で振り返った。
「どうした?涙。突然立ち止まって」
「ん?ちょっとね。…昼間店番していた時に双子だと思われる女の子二人が店に入ってきたの。ちょうど村に着いたばかりで、片方の女の子がとても疲れていたの。休んでいったらとは言ったんだけど…そのまま出て行っちゃったから無事に宿屋に着いたか少し心配でね」
涙は心配なそうに顔を曇らせた。
「特に騒ぎもないみたいだし、どっかで行き倒れてることはないだろ。それにその二人の名前、覚えてんの?」
しばし黙る涙。
「片方だけなら。確かミツチと呼ばれていた」
「じゃあ、宿屋で聞いてみるか?」
涙はしばらく考えた後、首を振った。
「止めておく。いきなり私が押しかけても迷惑かけるだけだもん」
「じゃあ、今のところは家に帰ろうか」
「…うん」
涙は頷くと、雷のほうに歩いた。
 その日の夜、涙は屋根の上に上がった。そして精霊の一人に二人のことを見てきてもらう。
「大丈夫みたいだよ。というか、もうすでに寝ていた」
「そう…ごめんね。変なこと頼んで」
涙は申し訳なさそうにその精霊を見つめた。
「別に構わない。大変なことではないし」
「ありがとう。シータ」
「だけど珍しいよな。涙がそれだけ心配するのって」
また別の精霊が口をはさむ。
「そうかな?でも、何でだろう?何か不安なんだよね」
それを聞いたまた他の精霊が難しい顔で言った。
「もしかしたら守かもしれませんね。また後できちんと確認したほうがよさそうです」
「じゃあ、明日になったら訪ねにいこう。少しは状況も落ち着いていると思うし」
「そうですね。そうして下さい」
精霊の言葉に涙は少し気合いを入れた。
「でも…本当に守だったらいいんだけどな」
またまた別の精霊の言葉に涙は顔を曇らせた。
「そうであることを祈ろう」
涙はそう言うと森を見つめた。
 次の日、涙は早速二人に会いに行こうとした。がしかし、昨日の仕事でかなり明とジェイが疲れてしまい、この日もまた涙が店番をすることになってしまう。涙は落ち込み顔で店に立った。だが午後に入ると、昨日の二人の女の子達のほうが店に来た。
「こんにちわ。昨日はすいませんでした」
「いえ、全然。でも大丈夫だったんですか?」
涙は少し心配そうな表情で二人を見た。
「はい。もういっぱい休みましたし。大丈夫です。心配かけてすいません」
昨日疲れきって肩を借りていた女の子は明るい表情でニコッと笑った。涙も安心して微笑む。
「それで昨日迷惑かけたので、何か買ってこうかなと思ったんです」
「そうですか。それはありがとうございます。でも、この店はオーダーメイドの店なので、しばらくお時間とらせることになりますよ」
涙に言われて二人は少し考えた。
「あの、アクセサリーとか小さいものはどの位かかりますか?」
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