long story 2

□『精霊のティアラ』
 2.目的と感情の間
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 風と雷が来て一夜が明けた。二人は八時頃起きた。かなり興奮し、なかなか寝つけなかったので、まだかなり眠たかった。顔を洗い、台所に行くと涙が洗いものをしていた。二人に気づくと涙はニッコリ笑った。
「おはようございます。まだよく眠っていらしたので、先に食べさせて頂きました。お店の準備もあるので。二人の分、もう一回温めますね」
桜は洗いものを一旦止め、二人の朝食の準備を始めた。二人はとりあえず、席に着いた。朝食はパンとスープに果物という簡単なものだった。朝食を食べつつ、雷が涙に聞いた。
「そういえば、お店の準備とか言ってたけど、一体何時位から開けてるんだ?」
「九時からです。今開店前の準備をしていますよ」
「そういえば、正確には何のお店なの?」
風が聞いた。昨日、中を見た以外、お店のことについては何も知らされてはなかった。
「簡単に言うなら、小物作りのお店ですかね。お財布、バッグ、帽子、タペストリーとかを注文に応じて作るんです。場合によっては洋服も作りますし、繕ったりもします。…まあ、基本的に布や皮製品のオーダーメイドの店ですね」
「そうなんだ。僕らは無理そうだな、そういうの」
風の言葉を聞いて、涙は微笑んだ。
「ジェイも明も器用ですからね」
「おまえは?」
雷がボソッと言った。
「私もできますが、私の主な仕事は家事ですから。急ぎの物以外は手伝いません。と言いつつ、昨日は夜中少し手伝いましたけど。今日引き取りの物ができてなかったので」
「え?じゃあ涙は昨日何時に寝たの?」
風は驚いた顔で涙に聞いた。涙はしばし首をかしげて考えた。
「一時くらいですかね」
「おまえそんなんで大丈夫なのか?」
雷が低い声で聞いてきた。
「まあこの程度なら。ひどい時は四時が数日続いたことがありますから。さすがにその時は、交代で昼寝しましたよ」
涙は苦笑いを浮かべた。二人は少し顔を引きつらせた。
「それより朝食を終えたら出かけましょう。紹介したい人がいるので」
「あ、わかりました」
風が答えた。涙はそれを伝えると、台所に戻っていった。
 二人が朝食を終え、支度を整えると、三人は家を出た。街のほうに少し歩くと、大きな煙突のある、大きめの家があった。ちょうど街と涙の家の中間位である。涙はノックもせずに中に入った。そこは涙の家同様、店を営んでいるようだった。並んでいるものから鍛冶屋だと思われる。一人の男の子がほおづえをついて店番をしていた。
「おはよう」
涙があいさつすると、男の子の顔が輝いた。
「涙!どうしたの?後ろの二人は?」
「同族の仲間よ。風と雷。…岩路さんいるかしら?」
男の子は風と雷のことを気にしつつ答えた。
「確か今作成中。呼んでこようか?」
「お願い、鋼。ちょっと重要な話があるの」
「わかった。じゃあ呼んでくるから、先中いて。女羅がいるから」
「ありがとう。じゃあ先に中に入ってるね」
涙はそう言うと、カウンター横のドアに向かった。今度はノックしてから、ドアを開けた。中には小柄な女の子が一人、立っていた。
「涙ちゃんいらっしゃい」
「おはよう、女羅。いきなりごめんね」
女羅と呼ばれた女の子は軽く首を振った。
「大丈夫。今お茶入れるから、座っててね」
「うん。わかった」
涙は慣れた様子で中に入り、椅子に座った。二人もそれに続いた。それから間もなく、鋼が男の老人を連れてきた。老人という言葉が似合わない位、がっちりとした体つきしている。
「いらっしゃい。涙。何か重要な話があるそうだが」
「はい。ちょっとご相談が。その前に紹介したい人がおりまして」
「隣におられるお二人かな?」
「はい」
男の老人は風と雷のことを見た。ちょうどその時、女羅がお茶を持ってきた。お茶を入れ終わり、台所に戻ろうとした女羅を、男の老人が呼び止めた。
「女羅、ちょっと待ちなさい。鋼も店のほうはしばらく放っておいていい。重要な話がある。お前達にとっても」
女羅と鋼はそれぞれ席に着いた。
「遠いところからようこそいらっしゃいました。私は岩路といいます。私は特に力を持つ者ではありませんが、神器を持つ者を二人、面倒を見させて頂いております。一人は火の神器を持つ女羅、もう一人は金の神器を持つ鋼です」
そう言われて、女羅と鋼は軽く会釈した。岩路は続けた。
「失礼だが名前と司る属性を教えて頂けるかな?」
口を開いたのは、いつものとおり風である。
「僕の名前は風。風の神器を持つ者。隣は双子の弟の雷。雷の神器を持つ者です」
「そうですか。これからよろしくお願いします。さて、涙。私に相談というのは何かな?」
岩路は視線を涙に向けた。
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