long story 2

□『死神の下り立つ時』
 7.心実の決意
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 心実は一人壁に寄りかかりながらぼっとしていた。
 聖が一輝を追いかけこの場を離れた後、心実は明人に聞かれた。
 なぜあの時聖とともに光獅のそばにいたのか、と。
 心実は素直に答えた。
 聖を他の聖の者から守り、また光獅のことが心配だったから、と。
 答える心実に明人は驚いていた。そしてもう一つ聞いてきた。
 ここに来たのは、新しく何かをしようとしているから?、と。
 心実は少し驚きながらも頷いた。
 一人にされるのが怖くて黙ってたけど、もうこれ以上間違ったことをする聖の者を見てられないから、と。
 明人は柔らかく微笑んだ。
 僕は自分のことだけで手一杯で、心実のことが全くわからなかった。でも、大切な想いはその胸の中にあるんだね、と。
 心実も控えめに微笑んだ。そしてしっかりと頷く。
 その姿を見て明人はこの場から離れていった。そして今に至る。
 心実は幼い頃抱いていた感情を思い出していた。

 人を殺しちゃいけないって言うのに、なんで魔の者は殺せって言うの?魔の者だって同じ人なのに。
 母さん達がしていることは、本当は悪いことなんじゃないの?

 その後、心実の母は殺された。

 仕方ないよね。悪いことしてたんだから。
 でも…このままでいいのかな?
 いけないことをしてるんだからやめさせなきゃいけない。そうしなくちゃ私も同じだもんね。
 だけど周りの大人はそれを受け入れてくれるかな?
 …多分無理だろうな。
 私がガブリエルだって言ったって、小学生になったばかりの子供だもんなあ。耳を貸すわけないよ。
 それに一人にされたらどうしよう?それだけは嫌だ。
 でも本当どうしよう…
 決めた!
 いけないことなのはわかってるけど、一人にされるは怖い。
 だから黙ってる。良いも悪いも言わないで、ただ見てよう。

 こうして心実は今まで何も言わず、見つめてきた。
 明人にも光獅にも言わずに。
「周りの大人からすれば、私は使い勝手のいい操り人形だったろうな…」
 心実は自重気味な笑みを浮かべた。
「でも、これからは…」
 新たな決意を胸に秘め、心実は歩き出した。

 零紀は知一の病室にいた。
 みんなどこかへ行ってしまい、知一と二人きりの状態。
 時々知一のことをチラッと見ながら、ただ黙っていた。
「…あんたはどっか行かねえの?」
 知一が聞く。零紀は答えなかった。
「それとも俺に用があるわけ?」
 核心をつかれ、零紀は視線を逸らした。
「何聞きてえんだ?黙ってるだけじゃわかんねえぞ」
 零紀はゆっくり視線を知一へと向けた。
「俺は施設で出会ってから、ずっと一輝と過ごしてきた。今も一緒に暮らしてる。…あいつの存在に俺は助けられ、おれはあいつを守ることに決めた。だけど…あいつが望むならあんたと一緒にいたほうがいいと思って」
 知一は零紀を見た。
「一輝を手放すのか?」
 零紀は顔を歪める。
「けど俺やおまえが言ったとこで、一輝はおまえを兄と呼び続けると思うぞ」
 零紀は何も言わなかった。
「別に俺はおまえの存在が邪魔になるとは思ってねえ。逆に今まで一輝を守ってくれたことに礼を言いてえくれえだ。本当にありがとな」
「別にそんな…」
 零紀は黙った。知一はじっと零紀を見つめる。
「おまえ…何を怖がってる?」
「…俺は一輝を守っていけるのかな。人として、魔の者として」
 知一は黙っていた。
「俺は一輝が辛い時支えてやる自信ないし、力に関してはつい最近目覚めたばかりだから、使い方わかんないし」
 知一は少し驚いたような顔で零紀を見た。
「おまえ、かなり真面目な」
「え?」
「俺はそこまで守ってやんなきゃってのはない。最終的にどうにかするのは一輝自身だ。俺らはそれを補佐するだけ。そんなに弱くねえしな。力に関しては俺もかなり難あり。精神的に不安定だから無理には使えねえ。でも力の使い方は知ってる。親からちゃんと受け継いだ」
 零紀はうつむいた。
「いいね。俺、そういうの全くなくて、自分が何で魔を宿すかもわからない」
 知一は零紀を見つめた。
「…おまえ、名前は?」
「え?黒風零紀」
「零紀の零はゼロを意味する零か?」
「ああ」
「その字、どっちかの親から受け継いだものじゃねえか?」
 驚く零紀。
「そう。母親から」
「母親と別れたのは幼い頃か?」
「うん。俺が五歳になる頃に家を出てった」
「ふうん。そういうことね」
 零紀は意味がわからず知一を見つめる。
「役目を継ぐ者は、必ずある字を名前に入れる。俺は知の字。一輝は輝の字。おまえの字は零だ」
 零紀はまた驚いた。
「おまえは母親から魔を受け継いだ。んでその心をもらってるはずだ。きちっと向き合えばわかるはずだぜ」
「…俺自身の中にある?」
「そうだ。だけど向き合うのはたやすいことじゃねえけどな」
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